キスを拒んだら、学校一の沼男に捕まりました


「あんなにベタベタしてたのに、あっさり終わったもんね」

「須藤先輩に本気になったら、そりゃ痛い目見るよねぇ。可哀想に」

すれ違いざまに聞こえてきたその会話に、思わず足が止まりそうになる。

あの日、寝言でこぼれた「り」は、その人のことだったんだろうか。

──本気になったら、痛い目を見る。

さっきの女の子たちの言葉が、なぜか耳の奥にこびりついて離れない。

私は別に、先輩を好きになったわけじゃないんだから、関係ない話のはずだ。

そう頭では分かっていても、胸のざわつきはなかなか収まってくれなかった。

購買の列に並びながら、ふと考える。

須藤先輩って、普段どんなご飯を食べているんだろう。

モデルの仕事もしているくらいだから、なにか厳しい食事制限とかあったりするのかな。

そういえば、今日はやけに蒸し暑い。先輩、寝起きでぼーっとしてたし、少し疲れも溜まってそうだった。

……ついでに、これも買っていこうかな。

私はメロンパンと牛乳のほかに、冷たいスポーツドリンクをもう一本、カゴに入れた。

頼まれてもいないのに、なんでこんなことしてるんだろう。

思い返せば、私は昔からこうだ。

誰かが疲れていそうだと、放っておけなくて、つい余計なことまでしてしまう。

家族にも、よく「そこまでしなくていいのに」と呆れられてきた。

でも、気づいたときには、もう身体が動いている。

呆れながらも、レジに向かう足は止まらなかった。