「モデルとか人気者とか、正直よく分からないので。目覚まし係を頼まれた、ちょっと面倒な先輩ってだけです」
「面倒って言った、今」
「言いました」
「はは、正直だなぁ!」
須藤先輩が、楽しそうに声をあげて笑う。
その笑い顔が、さっきまでの意地悪な表情とは違って、どこか年相応の男の子らしく見えて。
胸の奥が、ほんの少しだけくすぐったくなる。
なんだろう、この感じ。
肩書きも人気も関係なく、ただ「須藤海里」という一人の男の子として笑ってる、その顔を見ているだけなのに。
不思議と目が離せなくなる自分がいて、私は慌てて視線を落とした。
「まぁいいや。咲奈ちゃんがそういう子だから、俺もこうして頼めるわけだしね」
先輩が立ち上がり、私のほうへ近づいてくる。
すれ違いざま、ふわりと香水とは違う、先輩自身の匂いがした。
「あの、さっきの『り』から始まる名前、結局誰のことだったんですか」
「だから、寝言だって言ってるでしょ。しつこいなぁ」
「怪しいです」
「怪しくないから。ほら、そんなことよりチャイム鳴るよ、咲奈ちゃん」
須藤先輩に肩を押されるようにして、私は保健室を追い出されてしまった。
その瞬間、肩に触れた手のひらの熱が、しばらく制服の上に残っている気がした。
──カラカラ。
保健室の扉が閉まる音を背中で聞きながら、私は廊下で首をひねる。
なんだったんだろう、今の焦りよう。そんなに焦って誤魔化さなくても、いいと思うんだけどな。
さっき聞いた『一ヶ月ともたなかった』という話を思い出すと、なんだか胸のあたりがざわつく。



