キスを拒んだら、学校一の沼男に捕まりました


「り……んん、まだ、もう少し寝かせて……」

寝ぼけた低い声で、先輩が誰かの名前を呼びかけた気がした。

『り』で始まる名前。

聞き間違いかと思ったけど、確かにその響きが、先輩の薄い唇からこぼれ落ちるのを私は聞いた。

心臓が、コトリと小さな音を立てる。

──「り」って、もしかして梨沙子?

いやいや、そんなわけない。今朝も雑誌片手にはしゃいでいた梨沙子と、この人が繋がっているなんて、どう考えてもあり得ない。

じゃあ誰? さっき聞いた「三年のモデルの先輩」も、名前は分からないけど……もし「り」のつく人だったら。

まさか、まだ引きずってるとか?

そう考えたら、なんだか自分でも驚くくらい、すとんと嫌な感触が胸に落ちてきた。

「今、誰かの名前を言いませんでした?」

「……へ?」

私が尋ねた瞬間、須藤先輩の目がぱちりと大きく見開かれる。

一瞬にして、寝起きの緩んだ空気が消え去った。

「い、言ってないけど? 気のせいじゃない?」

「いや、絶対言いました。『り』から始まる、何か」