「前にも言ったと思うけど。俺、昔、素の自分を見せたら都合よく使われたことがあってさ。それ以来、誰かの前で気を抜くのが怖かったんだ」
学校で撮影があった日の夕暮れ、変装して並んで歩いた帰り道のことを思い出す。
あのとき先輩が語った、言葉少なな過去。
「でも、咲奈ちゃんにだけは、それができた。素のままの自分でいられた。多分、そのときからもう、俺は咲奈ちゃんのことが特別だったんだと思う」
「先輩……」
「今まで、誰かを本気で好きになるのが怖かった。でも、キミに会えなくなって、初めて分かったんだ。これが、本気で誰かを好きになるってことなんだなって」
彼の言葉に、目頭がじんわりと熱くなる。
須藤先輩が、私を好き。
こんなことってあるの……?
胸がいっぱいで、うまく言葉が出てこない。
でも、私にも、まだ伝えていないことがある。
先輩がこんなにも正直に気持ちを話してくれたのに、私だけ黙っているわけにはいかない。
そう思うのに、喉の奥が詰まって、声にならなかった。
窓の外から、体育祭の歓声がまた大きく響く。
その音を遠くに聞きながら、私はまだ、何も答えられずにいた。



