一瞬、そちらへ視線を向けた隙に、人の波に押されて、その姿はすぐに見えなくなってしまう。
「あ……」
慌てて背伸びをしてみるけれど、人混みはあまりにも多く、どこに先輩がいるのか、もう分からなくなっていた。
──会いたい。
たった今、はっきりとそう思った。
なのに、こんなにも簡単に、彼の姿を見失ってしまうなんて。
会いたいのに、会えない。こんなの、おかしいよ。
夜空にはまだ、最後の花火の煙が、うっすらと漂っていた。
その煙を見上げながら、私はしばらくの間、人混みの中に立ち尽くしていた。
◇
家に着いてスマホを開くと、通知がひとつ届いていた。
『今日、咲奈ちゃんと夏祭りですれ違った気がしたんだけど、気のせいかな』
須藤先輩からのメッセージだった。
指先が、じんわりと熱を持つ。
やっぱり、あの浴衣は先輩だったんだ。
『気のせいじゃないと思います。人混みで、すぐ見失っちゃいましたけど』
そう返そうとして、指を止める。
結局、何度も打っては消してを繰り返した末に、私はごく短く返信した。
『花火、綺麗でしたね』
しばらくして、既読がついた。
『だね。また今度、ゆっくり話そうよ』
たったそれだけのやり取りだったけれど、完全に途切れてしまったわけじゃないんだと分かって、少しだけ、胸のつかえが軽くなった気がした。
それでも、さっき友人から聞いた『気になってる人がいる』という言葉だけは。
いつまでも、頭の片隅から離れてくれなかった。



