翌朝。
自室の開け放った窓から差し込む朝日は、初夏を思わせるくらいに眩しい。
庭の木々からは、新緑を揺らす風の音と、爽やかな鳥の声が聞こえてくる。
歩き慣れた通学路なのに、今まで感じたことのない重い足取りで、私は学校までやって来た。
昨日の今日で、もう保健室に行かなきゃいけないなんて。
なんだか、悪い夢を見ていたんじゃないかって思いたくなる。
だけど、頭突きしたときの先輩の『いってぇー』という声も、耳元で囁かれた『もし咲奈ちゃんが俺の頼みを聞き入れてくれたら』という言葉も、しっかり覚えている。
夢なんかじゃない。これは、紛れもない現実だ。
途中、通学路の途中で信号待ちをしていると、隣に立っていた小学生の男の子が持っていた荷物を落としてしまった。
「あ、落ちたよ」
拾って渡してあげると、男の子は照れくさそうに「ありがとう」と小さく頭を下げた。
こういう、ちょっとしたことに気づいて手を差し伸べるのは、昔からの癖みたいなものだ。
自分では、特別なことをしているつもりはないんだけど。
「おはよう、梨沙子……って、それ!」



