家に帰り、鞄からそっとシュシュを取り出す。
今日は髪をまとめず、ずっと鞄の内ポケットに忍ばせていたのだ。
淡いピンク色の生地を、指先でくるくると弄びながら、私は今日の出来事を思い返す。
指先が触れた、あの瞬間。
『咲奈ちゃん、今日なんか変じゃない?』と聞いてくれた、あの声。
やっぱり私は、須藤先輩のあの笑顔が好きだ。
そう思うと同時に、胸の奥がまた小さく痛んだ。
今日は一日、なんとか乗り切れた。
でも、結局リンちゃんのことは、何も聞けないままだ。
スマホを取り出し、須藤先輩とのトーク画面を開きかける。
『昨日の、リンちゃんって誰ですか』
そう打ちかけて、指を止める。
結局、文字を全部消して、スマホをそっと伏せて置いた。
いつか、リンちゃんのことをちゃんと聞かなくちゃいけない。
そう分かっているのに。
「……やっぱり怖いな」
誰もいない部屋で、呟く。
もし聞いてしまったら、先輩との関係が終わってしまうかもしれない。
答えを知ることよりも、今はまだ、知らないままでいることを選んでしまう自分がいた。
窓の外では、夏の夜風が、カーテンをかすかに揺らしていた。



