先輩が保健室を出たあとも、頭の中で何度もあの言葉が繰り返される。
『キミ、顔色悪くない?』
あの低い声だけが、耳の奥にこびりついて離れてくれない。
結局あのあと、チャイムぎりぎりまで保健室で休ませてもらったおかげか、頭痛はいつの間にか治まっていた。
けれど、代わりに今度は別のものが胸のあたりで騒ぎ出している。
明日から、毎日あの人を起こしに来なきゃいけない。
そう思っただけで、どうしてこんなに落ち着かないんだろう。
面倒なことを引き受けてしまった。ただ、それだけのはずなのに。
とびきりモテて、とびきり意地悪で、移り気な人。
深入りしたら痛い目を見るのは、目に見えているのに。
私はまだ、知らない。
このなんでもない昼休みの出来事が、これから何度も思い出すことになる「はじまりの一日」だということを。



