保健室の目覚まし係になったら、学校一の沼男に捕まりました


あの日から、一晩が過ぎた。

昨夜はほとんど眠れないまま、朝を迎えてしまった。

制服に着替えながら、私は昨日の出来事を何度も思い返す。

『リンちゃん』という名前。腕の中の、あの温もり。静かに離れた、あの瞬間。

考えれば考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

今日、保健室に行くべきかどうか。

正直、まだ迷っていた。

いっそのこと、今日だけ仮病を使って行かないという選択肢も、頭をよぎらないわけではなかった。

でも、行かないという選択肢は、結局のところ最初から自分の中になかった。

逃げたら、きっと余計に苦しくなる。

それに、先輩は多分、あのときのことを何も覚えていない。

だったら、変わらない態度で接するしかない。

そう自分に言い聞かせながら、私は重い足取りで家を出た。

◇

「おはよう、咲奈。今日、目の下すごいクマだよ」

登校して教室に入るなり、梨沙子に指摘された。私は思わず頬に手を当てる。

「あー、うん。ちょっと、寝苦しくて」

「最近、すごい暑いもんね。分かる」

梨沙子は特に深く追及することなく、そのまま雑談を続ける。

普段通りの梨沙子の様子に、少しだけほっとする自分がいた。

午前中の授業は、淡々と進んでいく。

でも私の頭の中では、ずっと昼休みのことばかりが気になっていた。

聞くべきか、聞かざるべきか。

このことばかりを、休み時間のたびに考えていた。