放課後。鞄を持っていないほうの手が、無意識にシュシュへと伸びる。
外そうか、少し迷って、でも結局そのままにして、私は雨の中を家路についた。
スマホが震えたのは、家に着いてすぐのことだった。
『咲奈ちゃん、今日は昼休み来てくれてありがとう。俺、爆睡しちゃってたみたいで全然覚えてないんだけど』
『今度ちゃんとお礼するから。また明日ね』
いつも通りの、軽い調子のメッセージ。
スマホの画面を見つめたまま、私はしばらく、返事を打てずにいた。
覚えていない、ということは。
さっきの寝言のことも、抱きしめられたことも、先輩の中には何も残っていないのだろう。
だったら、リンちゃんのことを、私はどんな顔で聞けばいいんだろう。
明日、いつも通り保健室に行くべきなのかどうか。
そんなことすら、今の私には分からなかった。



