チャイムの音が、遠くで鳴っているのが聞こえた。
早く教室に戻らなきゃ。分かっているのに、身体が動かない。
しばらくして、ようやく立ち上がった私は、目元をごしごしと擦ってから、教室へと足を向けた。
◇
「咲奈、遅かったね。どうしたの?」
席に着くなり、梨沙子が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あ、ごめん。ちょっと、お腹の調子悪くて」
咄嗟に、そんな嘘が口をついて出た。
「え、大丈夫? 保健室行った?」
「うん、行ってきた」
行ってきた、なんて言葉では片付けられないくらい、色々なことがあった昼休みだったけれど。
「そう、無理しないでね」
「うん、ありがとう」
心配してくれる梨沙子に曖昧に笑い返しながら、私はノートを開く。
授業が始まっても、先生の声はどこか遠くで聞こえるだけで、頭にはちっとも入ってこなかった。
黒板の文字を、ただぼんやりと眺め続ける。
窓の外の雨音だけが、やけにはっきりと耳に届いていた。



