──あっ。
そのとき、ふと頭の中である光景が浮かんだ。
さっき、保健室に来る途中の廊下で見かけた、私と同じ一年生の女の子。
顔色が悪そうに、壁に手をついていた気がする。
私は覚悟を決めて、大きく息を吸い込んだ。
先輩の胸元に顔を埋めたまま、声が籠もらないよう少しだけ顔を横に向ける。口元を手で覆いながら、カーテンの向こうへ必死で声を張り上げた。
「せ、先生!」
カーテンの向こうに向かって、できるだけ大きな声を出す。
姿は見せられない。でも、声だけなら。
「さっき廊下で、一年生の子が具合悪そうにしてました! 三組の前あたりで、壁に手をついてて……! 早く見てあげてください!」
足音が、ぴたりと止まる。
「あら、まあ。それは大変」
柄本先生の声が、心なしか慌てたものに変わった。
「須藤くんのことも気になるけど……ごめんなさいね、そっちを先に見てくるわ!」
パタパタと、足音が遠ざかっていく。
──ガラッ。バタン。
保健室の扉が閉まる音がして、あたりに静けさが戻ってきた。
はあ、助かった。寿命が縮むかと思った。
安堵で、身体から力が抜けそうになる。
でも、油断はできない。柄本先生が戻ってくる前に、なんとかここを離れなきゃ。
私の身体に纏わりつく重みは、相変わらずで。
先輩のほうへ目をやると、先ほどまでと変わらず目を閉じたままだ。
もう! さっきから私一人ヒヤヒヤして。先輩は、まだのんきに夢の中だなんて……!
腹が立つけど、このきれいな寝顔はやっぱり憎めない。
「ああ、えらいな……ちゃんは」
須藤先輩、寝言かな?
「今日も俺のことを起こしてくれて。えらいえらい」
もしかして先輩、夢の中でも私のことを褒めてくれてるのかな?
そう思うと、自然と頬が緩む。
「ほんとに賢いし、可愛いなぁ……リンちゃんは」
──え?



