「いやぁ、ごめんね。さっきのは嘘なんだ。実はこれ、俺が自分で転んでおでこ打っちゃったんだよね。だからこの子は、全然悪くないよ」
「えっ、そうだったの? 海里、大丈夫?」
「海里くん〜。あたし、手当てしてあげようか?」
うわ。須藤先輩の言葉ひとつで、こんなにも相手の態度が変わるなんて。
そういえば、田村さんと鈴木さんは最後まで私の名前を聞かなかった。
もし次に会うことがあるなら、そのときはどんな顔をされるんだろう。
そんな予感だけを残して、二人は須藤先輩に連れられ保健室を出て行った。
「それじゃあ、さっそく明日からよろしくね。咲奈ちゃん」
気づけば、昼休みの終わりを告げるチャイムがもうすぐ鳴りそうな時間になっていた。
こんなにギリギリまで話し込んでいたなんて。
田村先輩たちに囲まれながら、こちらへひらひらと手を振る須藤先輩。
その顔は、もう完全にいつもの人を食ったような笑みで。
あの一瞬だけ見せた、私の顔色を心配するような静かな目は、どこにもない。
見間違いだったのかな。
そう自分に言い聞かせようとしたけれど、うまく出来なかった。



