私は筆算の途中の数字を一つずつ指差した。
「ほら、ここ。この桁の計算を、算木ではなく、この木簡に書いた『筆算』で上から順に追ってみてください。文字として『繰り上がりの数字』を視覚化(バグチェック)しておけば、途中でどれだけ大きな音が鳴ろうが、絶対に計算は狂いません」
タクマは、私が書いたアラビア数字(を漢字に直したもの)と、縦に美しく揃えられた数式の羅列を凝視した。
彼は技術者だ。
論理的に並べられたデータを見せられれば、自分のどこにエラーがあったのか、すぐに理解できてしまう。
「……嘘、だろ……。俺が、計算を、間違えた……?」
タクマの肩が、ガクガリと震え出した。
「文字を縦に並べて、繰り上がりを横に小さく書き残す……。なんだこの呪術のような計算方法は。算木を動かすよりも、何倍も早くて正確じゃないか……!」
「これが現代のプロジェクトマネジメント……じゃなくて、私の故郷に伝わる『筆算』という進捗管理の技術です」
私はふっと胸を張った。
「タクマ、お前の敗北だ」
それまで静観していた厩戸皇子が、畳の上で楽しげに扇をパチンと叩いた。
「依の言う通り、お前の脳がバグを起こしていた。これで仕様書の寸法は統一されたな。納期に遅延は出ない。タクマ、すぐに作業を再開しろ。期限は明後日だ」
「くっ……!」
タクマは悔しそうに歯を食いしばったが、すぐに職人としての顔に戻り、私を深く見据えた。
「……橘の依殿。俺の負けだ。あんたのその『ひっさん』とかいう技術、現場の職人たちにも教えちゃくれねえか? それがあれば、俺たちの残業……いや、徹夜作業も半分に減らせる」
「ええ、もちろんです! 現場のワークライフバランスを整えるのもPMの仕事ですからね。明日、講習会の時間をスケジュール(段取り)しておきます!」
タクマは「感謝する」と短く言い残し、清々しい顔で現場へと走っていった。

