急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る

 あの後、いくら追及してもレスターが口を割ることはなく、明確なことは解らないままマクナリー兄弟と別れてしまった。

「素敵…!まるで物語みたいな展開じゃない!?」

 お姉様は終始目を輝かせて恋愛小説の読み手の様な顔をしていた。
 まったく、冗談じゃない。私はそんな小説の登場人物になるつもりはない。折角、アイヴァン様(運命の人)と出逢えたのに、波風を立てないでもらいたい。

 ──とはいえ、レスターが笑うなんて余程の事。実の兄であるエリクですらも、目を見開いて驚いていたほどだ。

 レスターに限って私なんかを選ぶはずはないと思うが、周りはそうは思っていないようで朝から外野が煩い……

「自分の想いを匂わせ、相手に自分の存在を植え付けるなんて独占欲丸出しじゃない?」
「流石はレスター様、策士ですねぇ」
「お嬢様は中年の男性()()興味がありませんでしたからねぇ。時期を見計らっていたのでしょう」

 朝食を終え、部屋でのんびりしようとしていた所にお姉様と侍女たちが襲撃。お茶を片手に語りだした。

 かれこれ二時間ほど経つ。いい加減鬱陶しくなってきた。

「ねぇ、やっぱり団長様なんてやめてレスターにしなさいよ」
「は?」
「レスターは執務官で安定職。若いながらに出世頭として期待されているでしょう?将来は安泰だし、侯爵としての身分もある」
「……」

 頭のキレるレスターなら出世は間違いない。それは否定はしない。だが、愛は身分やお金じゃないのだよお姉様。

「なにより、私が心配なのよ。騎士である団長様ではいつ命を落とすか分からないでしょう?そうでなくとも、貴女を残して逝くことは明白じゃない」

 何を言っているんだ?この人は……

「ね?年の近いレスターなら、長く一緒にいられるし私ともずっと一緒にいられるじゃない」

 そっと手が私の頬に触れそうになったところで、その手を弾いた。

「いい加減にしてください!いくらお姉様でも言っていいことと悪いことがあります!」
「ミーリ?」

 初めて向けられる敵意にお姉様は戸惑ったように弾かれた手を握りしめていた。

「今までは私の事を大事に思ってくれているからだと我慢していましたが……まだ健在の方の終焉を決めつけるのは許せません」

 歳の差もあるし騎士という危ない仕事に就いているから言っていることは間違いないのかもしれないが、未来の事は神にしか分からない事。私の方がポックリと先に逝く可能性だってある。だから、勝手に決めつけられるのはやめて欲しい。

「……言いたいことはそれだけ?」

 お姉様は「ふぅ」と一息つくと、険しい表情で聞き返してきた。

「貴女は知らないかもしれないけど、お父様はレスターを貴女の婚約者に据えるつもりだったのよ」
「え」
「向こうのご両親にも話は通してあったのに、貴女がおじさんしか認めないと駄々を捏ねていたせいで先に進めないまま、レスターの婚約者も決まらずじまいなのよ?不憫だと思わないの?」

 いや、今更そんな事言われても…っていうか、そんな大事なことは先に言ってよ……まあ、言われたところで従わないけど。

「それなのに貴女ときたら勝手に街中に張り紙を貼って婚約者を募る始末……正直、私もお父様もあんなふざけたものに引っかかる者はいないと高を括っていたのは認めます。まさか、団長様が引っ掛かるとは思いもしなかったわよ……」

 想定外だと頭を抱えているが、なぜ不思議がる?私とアイヴァン様は運命の糸で繋がっているのよ。なるべくしてなったのよ。この出会いは覆すことは出来ない。

「とにかく、私が言いたいのは、貴女の本当の婚約者はレスターなの。お父様も表面上は喜んでいるけど自分より年上の者を息子だと呼べるわけないでしょう?少しはお父様の気持ちも考えなさい」

 抉るように急所を突かれて、言い返す言葉が出てこない。

 お父様たちからすれば、複雑な気持ちなんだろうなとは思ってる。お母様なんて、ようやくベッドから起き上がって庭を散歩できるようになってきたところだ。卒倒させてしまったことに関しては本気で申し訳ないと思ってる。

 でも、私は幼い頃から年上が好きだと言っていたし、両親だってそれを黙認していたはず。許してくれなかったのはお姉様だけ。それを今更蒸し返されたって承諾出来るはずがない。

(なんでお姉様は好きな人と結ばれて私は駄目なの?)

 ギュッと拳を握りしめた。

「………ば………い……」
「え?」

 俯きながら呟くが、姉の耳には届かなかったようで聞き返してきた。

「お姉様の馬鹿!大嫌い!」

 目を吊り上げ、鋭い眼光で睨みつけながら怒鳴りつけ、飛び出すような形で部屋を出た。

「あ、待ちなさい!ミーリアム!」

 背後から引き止める声が聞こえたが、振り返ることもせずに屋敷を飛び出した。