急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る

 格好つけてアイヴァン様を連れ出したまでは良かったが、中庭に差し掛かった頃になって気づいたことがある。

(まずい。ノープラン……)

 この後の事を全く考えていなかった。でも今更後には引けない。

 どさくさに紛れて腕まで組んじゃって……こんなの離したくないじゃん……どうする?いっその事、このまま攫ってしまう?

 この際犯罪者になってもいいかも……とついには尊厳まで手放しそうになったところで「ははっ」と頭上から吹き出したような笑い声が聞こえた。

「すまない。まさか私の為とはいえ、あれだけの騎士を相手に啖呵を切るとは思わなかったものでな。まるでプロポーズだったな」

 目を細めて笑う姿は無邪気な子供のようで、ドキッと胸が跳ねた。

「と、当然じゃないですか。私がアイヴァン様以外の男性に興味を持つはずありませんからね。そこはちゃんと分かって欲しかったんです」

 赤らむ顔を見られたくなくて、フイッと顔を逸らしながら言い返した。

「君は本当に……いや、そうか。私は幸せ者だな」

 何か言いかけたようだが、言い直しながら柔らかな笑みを向けられたらもう、降参。掴んでいる腕から伝わりそうなほど鼓動がうるさい。

「ああ、そうだ。プロポーズですが、もっと雰囲気のあるところで伝えるのでさっきのはノーカンでお願いします。こんな売り言葉に買い言葉みたいなプロポーズは嫌なので」

「フンッ」と鼻を鳴らしながらお願いすると、彼は一瞬ポカンとした表情を浮かべた後「あははははは!」と腹を抱えて笑い出した。

「え、え、え?」

 訳も分からずアイヴァン様ご乱心!?なんて狼狽えていると、涙を浮かべた瞳で私を映した。

「そうか、君がプロポーズしてくれるのか?それは楽しみだな」

「くくくっ」と笑いを堪えながら言われた。別にそこまで笑うようなことじゃないが、アイヴァン様が楽しいなら私も楽しい。

(プロポーズ、楽しみにしてくれるんだ)

 今からどんなプロポーズにしようか考える楽しみが増えた。

「それで?私はどこに連れて行かれるのかな?」

 ようやく落ちつき、一息ついたアイヴァン様から今一番訊かれたくない質問が投げかけられた。

「えっと~……」と目を逸らしながら誤魔化してみるが、こんな時に限って頭が真っ白でいい案が浮かばない。頭の中にあるのは、この腕を離したくないってのだけ。

(正直に帰りたくないって言ってみる?)

 なんかそれは下心見え見えって感じでヤダなぁ。でもなぁ……

 唸りながら考えていると、ポンッと頭に手が置かれた。

「冗談だ。私の執務室へおいで」

 顔を上げると、余裕の笑みを浮かべるアイヴァン様と目が合った。

「……もしかして、最初から困ってるの分かってました?」
「ん?私を誰だと思ってるのかな?これでも人の顔色を読むのは得意なんだが?」
「~~~~~~~ッ!?!??!」

 当然のようにシレッと言われた。

「もう!早く言ってくださいよ!」
「あははは!すまんすまん!」

 恥しさを誤魔化すように怒りをぶつけるが、アイヴァン様の楽し気な顔を見ちゃうと、つい許してしまう自分がいる。

「……アイヴァン様って、実は意地悪ですね」
「おや、意地悪なおじさんは嫌い?」
「くぅぅ~……!好きです!」

 私は一生この人には敵わないと思い知らされた瞬間だった。


 ***


「どうぞ」
「失礼します…」

 誘われるがままに執務室へやって来てしまったが、よく考えたら部屋=密室。しかもアイヴァン様の香しい匂いが染み付いた部屋なんて、正気を保てる自信がない。

「どうした?随分大人しいじゃないか」
「……すみません。今、心頭滅却中なので……」
「は?」

 目を瞑り、胸の前で手を合わせる私を怪訝な目で見てくるが、心を落ち着かせ、雑念を捨てなければこの楽園(部屋)には居られないので必死。

「よく分からないが、落ち着いたら適当に座ってくれ」

 軽く流してくれる大人な対応。流石です…!

 アイヴァン様と一緒にいると、毎秒ごとに新しい発見と愛おしさが増していく。

「えっと、失礼します」

 ゆっくり真ん中に置いてあった長椅子に腰掛けると、すぐにアイヴァン様が距離を詰めて隣に座った。

(──ん゛!?!?!!!?!!)

 驚きと喜びと戸惑いで、完全に声を失った。

 目の前にはガラ空きの長椅子がある。隣に座る必要はないはずなのだが!?いや、決して嫌なわけじゃないんだけど、心の準備が……

 背を正し、恐る恐る横に視線を向けた。

(あれ?)

 するとどうしたことだろう。先程までの笑顔が嘘のように、沈んだ表情で頭を抱えて顔を伏せっている。

(え、なになになになに?どうしたの?)

 急な変化についていけず、ただただ困惑。

 声をかけた方がいいのかな?と思ったところで、アイヴァン様が口を開いた。

「……先程、君の事を笑ってしまったが、正直なところ、私もあの場にいた騎士たちと同様に君を疑ってしまった」
「え?」
「すまない。君の気持ちは分かっていたはずなのに、部下たちの言葉に心動かされてしまった」

 アイヴァン様は何度も「すまない」と謝罪の言葉を口にした。

 まさかの懺悔に動揺するかと思ったが、思いのほか冷静でいられる。
 ショックじゃないと言えば嘘になるけど、アイヴァン様を少しでも不安にさせてしまった私が悪い。

「アイヴァン様」

 そっと手を取りながら名を呼ぶと、取った手に力が込められた。

「疑われたのは悲しいですけど、それは私の愛が足りなかったせいです。貴方が謝る必要はありません。私こそ、不安にさせてしまって申し訳ありません」
「それは違う!」

 間髪入れずに否定の言葉が飛んでくる。

「いいえ。最初に出会った時に伝えたでしょう?私が愛するから、貴方はただ愛されていればいいと…」

 愛し方が分からないという彼を逃がさない為の言葉だったが、使い方次第で納得させた上で黙らせることができた。

 正直なところ、私も手探りな部分はある。お付き合いしたのがアイヴァン様が初めてなので、この熱量をどの程度放出させればいいのか分からなかったってのもある。

「どうやら、私は貴方に嫌われるのを恐れるあまり無意識に気持ちを抑え込んでいたらしいです」

 思い詰めたように顔を俯かせながら呟いた。

「──ですが!これからは我慢はしません!不安になる暇がないぐらい私の愛情を感じてもらいますから!覚悟していてください!」

 胸を張りながら威勢よく言い切った。

「あ、でも、本当に鬱陶しかったら言ってください……」と小声で付け加えると「ブハッ!」とアイヴァン様が吹き出した。

「そこまで大見得を切ったんだ。期待していいんだろう?」
「も、勿論です。女に二言はありません?」

 目を細めて笑うアイヴァン様に一抹の不安を感じたが、ここで引き下がっては女が廃ると強気な態度は崩せない。

「くくくっ、そうか。それは楽しみだな」