急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る

「ちょ、ちょっと待って!君、いくつ?」
「23ですが?」

 私とアイヴァン様の関係性を聞くなり、戸惑う騎士らから尋問の如く質問を受けた。

「いやいや!団長の年知ってる!?」
「存じ上げてますが」
「ありえないでしょ!」

 その言葉を聞いた瞬間、私の眉間の端がピクッと吊り上がった。

「……ありえない?それは何に対しての否定の言葉です?」

 自分でも驚くほど低く冷たい声が出た。私の異様な圧に、流石の騎士も反射的に一歩後退った。

「いや、だって、年が……なあ?」

 周りの騎士に同意を求めると、同調するように皆が恐る恐る頷いている。
 その様子に堪らず「はぁぁぁぁ~」と長く深い溜息を吐きざるを得なかった。

「年の差如きでやかましいですねぇ……そんな騒ぐほど大した差でもないでしょう?いちいち自論を押し付けるの止めてもらえます?」
「「大した差だろ!?」」

(お、おぉ……)

 その場にいた全員の声が綺麗に合わさった威力は抜群で、思わず仰け反ってしまった。

「あのね、誤解されたくないから先に言っておくけど、団長の婚約を喜んでいない訳じゃないからね。本当は手放しで祝ってやりたいよ?」
「そうそう。この年まで独り身で騎士団を引っ張ってくれたんだ。ここにいる奴ら全員、団長には幸せになって欲しいって願ってる」

 うんうんと全員が頷いている。

 こんなに慕われているアイヴァン様素敵……と思っているが、一先ず口には出さず黙ったまま話が終るのをジッと待った。

「──で、君の登場だ。正直、君みたいな若い子はいずれ年の差を感じて嫌になる。それこそ、他に男を作ったり……」

 疑うような目を向けられては黙ってはいられない。

「私が、アイヴァン様以外の者に目移りすると?」
「……まあ、これから先、出会いはいくらでもあるし?」

 口ごもり言いにくそうにしながらも言い放った。

「おい!いい加減にしろ!」

 すぐにアイヴァン様が合間に入って発言した者を責め立ててくれたが、それを私が止めた。

(なるほどね……理解したわ)

 これはアイヴァン様を責めている訳じゃなく、()()責められていたのか。

 今まで恋愛とは無縁で興味を示さなかった団長様が、なんの前触れもなく突如婚約者だと連れてきたのが20も年の離れた小娘では警戒するのは無理もない。

 ──が、それにしてもだ。最初から頭ごなしに否定するのはどうかと思う。

 私は再び「はぁぁぁぁぁ」と大きく深い溜息を吐いた。

「貴方がたがアイヴァン様を大事に思っている事は分かりました。その上で問います。一体、私はどこの誰でしょう?」
「「は?」」

 いきなりのクエスチョンに、狼狽えるどころが呆然と首を傾げている。

「あ!君って、もしかしてシュツェル伯爵の……?」
「はい!そこの貴方!正解!」

 一人の騎士が思い出したように手を叩き、答えを導き出してくれた。

「改めまして私、ミーリアム· シュツェルと申します。…さて、この名に聞き覚えはありません?」

 胸に手を当てながらニッコリと微笑むと、沢山の視線が一気に私の顔に集中する。

(顔じゃなくて名前だって言ってるのに!)

 視線をこんな大量に浴びる機会もなかったので、急に恥ずかしくなって、そっと視線を逸らして顔を軽く俯かせた。

「あぁ!分かった!シュツェル家のお嬢様って、あの貼り紙の子か!」

 一人が気が付くと、一斉に声が上がり始めた。

「あのおかしな貼り紙!?冗談半分で団長に渡したやつじゃん!」
「ウソだろ!?あれってマジなやつだったの!?」

 どうやら、アイヴァン様以外は本気にはしていなかったようで、みんな驚きを隠しきれていない。

(うん。冗談半分で渡したヤツ出てきなさい。全力で褒めてあげるわ)

 未だにどよめきとざわめきは落ち着かないが、これで私の本気が分かってもらえたはずだとホッと息をついた。

「ちょっと待て。若い女性がわざわざ歳のいった男を選ぶか?それも、張り紙まで出して大々的に募集してんだぞ?おかしくないか?」
「そうだよなぁ……何かの罠か?」

 安心したのも束の間。おかしな方向に風向きが変わり始めた。

「……もしかして、財産目当て?」
「それしかないだろ。団長は恋愛に関しては初心者だろ?そこを狙ったんだ」

 厳しい目が私に向けられる。

 勝手に仮説を立て、確認せずに自分らが正しいと思い込む……冤罪にもほどがある。

「お嬢さん。もう少し話を聞かせてもらえるか?」
「事と次第ではこの婚約は白紙とさせてもらう」

 威圧感を纏わせながら詰め寄られた。か弱き女性一人に騎士が寄ってたかって責め立てるなんて騎士にあるまじき行為だ。これではアイヴァン様の苦労が知れる。

 いくらアイヴァン様を守る為とはいえ、当事者の意見はまったくの無視。流石の私だって我慢の限界。

「寄ってたかって執拗いですねぇ…若い子にも相手にされないからって僻みですかぁ?」
「「は?」」

 クスッと嘲笑うと、空気がピリッと緊張感が増した。

「部外者が煩いのよ。『おめでとうございます』その一言で終わるのに、変な正義感かざしちゃってさぁ。羨ましいならそう言えばいいでしょ?」

 私の言葉に数人はバツが悪そうに顔を逸らした。

「嬢ちゃん……言っていいことと悪いことがあるぞ?」
「その台詞、そっくりそのままお返しするわ。こっちの意見まる無視して盛り上がっちゃって格好悪い」
「──ッ」

 完全に墓穴。

 私に言い負かされ、悔しそうに顔を赤らめる騎士を見ると気分がいい。

「先に言っておくけど、私は本気だから。アイヴァン様以外の男は人とは認めてないから」
「……それは言い過ぎじゃ……」
「いいえ!私の視界に映る男性はアイヴァン様だけです!他は二足歩行で喋るだけの生き物です!」
「それを人だと言うんじゃ……」

 目を輝かせて言えば、先ほどまで意見していた騎士らも言い返すのを忘れるほどドン引きしていた。

「……ねぇ、彼女少しおかしいけど団長様にはこれぐらいの方がいいんじゃない?」

 一人の若い騎士がぽそっと呟いた。

「おい、少しじゃないだろ。大分おかしいぞ?」
「バカと天才は紙一重って言うでしょ?それと一緒だよ」

「「あぁ~」」と何故か周りも納得したように頷いている。私からしたら納得していいのか悩むところ。

「恋愛下手の団長様には彼女くらいぶっ飛んだ子の方がいいんだよ」
「そこの君!いいこと言った!」

 ビシッと発言した騎士を指差した。差された方は驚いて肩が飛び上がっていた。

「私以上にアイヴァン様の事を想ってる人います?私以上ですよ?いませんよね?でも安心してください。私が生涯をかけて幸せにすると誓います」

 口早に言って黙らせた。

 しばらくの間沈黙が続いたが、沈黙を破るように「ふはっ」と笑い声が聞こえのを皮切りに「あははははははは!」と地面を揺らすほどの笑い声が響き渡った。

「お嬢ちゃん面白いなぁ」
「疑ってごめんな。君以上に団長を想ってる子はいないわ」

 その場は反対ムードから一気に祝いムードに変わった。
 ようやく認められたと喜んだのと同時に、騎士達を味方につけた事で簡単に婚約破棄が出来ない状況に追い込むことが出来た。

 我ながら腹黒いとは思うが、保険はいくつあっても困らない。

「じゃあ、私はアイヴァン様に用がありますので」

 困惑するアイヴァン様の腕を取り、その場から立ち去る為に踵を返した。

「ああ、改めてすまなかった」
「団長をよろしく」

 その言葉に応えるように背を向けたまま拳を天高く突き上げた。すると、背後から「うぉぉぉぉぉぉ!」と歓声が上がった。