アイヴァン様率いる騎士たちは、王宮の敷地内にある演習場で剣の稽古をしているはず。
手ぶらではなんなので、差し入れを用意して来てきたが、こういうのはもっと仲を深めてからの良かったかな?好きな物とか知らないし…あざといとか思われたりするかなぁ?
なにせ、婚約者に会いに来るなんて初めての経験だし、男性にこんなにドキドキするのも初めて。全てが手探りで、失敗しないか怖くて仕方ない。
急に足取りが重くなり、引き摺るようにしながらゆっくりと先に進む。角を曲がったところで、キンッと刃のぶつかる甲高い音が聞こえてきた。その音に混じって数人の声も聞こえる。
ソッと柱の陰から覗けば、若い騎士が汗を飛ばしながら剣を振るっていた。一体どれぐらいの時間やっているのか……新人の騎士らはヘロヘロで、剣を握っているのがやっとの状態。
「そこ!怠けるな!」
厳しい声を上げて場を奮い立たせているのは、団長である愛しのアイヴァン様。
腕を組み、騎士たちを睨みつけている姿は惚けてしまうほど凛々しくて視界が幸せ過ぎる。
(眼福が過ぎる…)
訓練してる姿なんて滅多に見れるものじゃない。今までは来たくても来れなかった場所に足を踏み入れているのだから、瞬きをするのさえも勿体ない。
脳裏にその姿を焼き付かせようと、目をかっぴろげて凝視していると、背後からポンッと肩を叩かれた。
「うひゃぁぁ!!」
驚きのあまり、可愛げのない悲鳴が響き渡った。
その瞬間、剣のぶつかり合う音は止まり、瞬時にざわめく現場。
「なんだ!?どうした!?──……ん?」
最初に駆けつけたのはアイヴァン様。
「ミーリアム?」
腰を抜かし、床にへたり込む私を見て驚いた表情を見せている。
「あ…」
何か言わないといけないのに、言葉が出てこない。
「こんな所までどうした?」
アイヴァン様の優しい声が遠く感じるほど、焦りと羞恥心で頭の中が一杯だった。どうしようもない自分に目頭が熱くなってくる。
「ごめん団長。俺が彼女を驚かせたみたい」
私を背にして庇うように前に出たのは、肩を叩いた張本人である副団長のルディガー・アマデウス。最年少で副団長まで昇りつめた逸材だと一時話題になっていた人。世間的にはイケメン部類らしいので、彼を目当てに、この演習場まで通う女性は後を絶たない。
(確かお姉様の3つ上だったはず……)
御年28歳の若輩者。そんな男のどこがいいのか私には理解ができない。
そもそも、こんな間抜けな姿をアイヴァン様に見せることになったのも全てこの人のせい。
(『驚かせたみたい』じゃないのよ!驚いたの!)
予定では、訓練を終えたアイヴァン様の元へ労いながら近づいて、さりげなく差し入れを渡して淑やかに去る。可憐で愛らしい完璧な婚約者を演じて、私の存在を周りに知らしめる作戦だったのに!
(……コイツのせいで……)
恨めしくルディガーを睨みつけた。
「あっれ~?女の子がいる」
「誰に会いに来たの?俺?」
「お前なわけないだろ!どちらかと言えば俺の方が確率高いだろ?」
そうこうしているうちに騎士達もぞろぞろ集まって、あっという間に周りを囲まれた。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
「あ!それ、差し入れ?」
ここまで男の人に囲まれることもないし、無遠慮でグイグイくる騎士のノリに付いて行けず、狼狽える事しかできない。
手に持っているバスケットを取られそうになったところで、大きな背中が私の前に立ちはだかった。
「お前たち!いい加減にしろ!困っているだろ!」
私の為に目を吊り上げ、声を張り上げて怒鳴りつける姿に、不謹慎だと分かっていても嬉しくて顔がニヤけてしまいそうになる。
(もう…好き)
ほぅとしながら頬を赤らめ、大きな背中を眺めていたが、その視線を遮るように突如、ルディガーが割って入って来た。
「そうそう。彼女は俺に会いに来てくれたんですよ。ね?」
「は?違いますよ」
満面の笑みで当然のように言ってくるが、不愉快だとばかりに顔を顰めて即否定。
ルディガーは正気か?と言わんばかりの表情を向けてくるが、己のその自信はどこから出てくるのか真剣に問いたい。
「私はアイヴァン様に会いに来たんです!」
見せつけるようにアイヴァン様の腕に抱き着きながら言い返してやったが、全員キョトンとしたまま首を傾げている。
「えっと……お嬢ちゃんが?団長に?」
何とか理解しようとしているのか、口元を引き攣らせながら再度問いかけてくる。
まるで私が会いに来たらおかしいと言っているような口ぶりに「ムッ」と眉を寄せた。
「あのね──!」
一歩踏み出し言い返そうとしたが、私が口を開くより先に肩を大きな腕に抱かれた。
「彼女は私の婚約者だ」
ギュッと抱きしめながらはっきり聞こえた『婚約者』という単語に、先程までの怒りは吹き飛び一気に有頂天。
年の差もあるし、出会った経緯があれな訳だから、もしかして関係を濁されるかな…って少しだけ心配してたけど、全くの杞憂だった。
そんな酔いしれている私の目の前では、騎士たちが「は?」と口を開けて呆気に取られていたが、アイヴァン様の真剣な眼差しに全員が我に返ったらしく
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!??!?」」
──と、地面が揺れるほどの叫び声をあげた。
手ぶらではなんなので、差し入れを用意して来てきたが、こういうのはもっと仲を深めてからの良かったかな?好きな物とか知らないし…あざといとか思われたりするかなぁ?
なにせ、婚約者に会いに来るなんて初めての経験だし、男性にこんなにドキドキするのも初めて。全てが手探りで、失敗しないか怖くて仕方ない。
急に足取りが重くなり、引き摺るようにしながらゆっくりと先に進む。角を曲がったところで、キンッと刃のぶつかる甲高い音が聞こえてきた。その音に混じって数人の声も聞こえる。
ソッと柱の陰から覗けば、若い騎士が汗を飛ばしながら剣を振るっていた。一体どれぐらいの時間やっているのか……新人の騎士らはヘロヘロで、剣を握っているのがやっとの状態。
「そこ!怠けるな!」
厳しい声を上げて場を奮い立たせているのは、団長である愛しのアイヴァン様。
腕を組み、騎士たちを睨みつけている姿は惚けてしまうほど凛々しくて視界が幸せ過ぎる。
(眼福が過ぎる…)
訓練してる姿なんて滅多に見れるものじゃない。今までは来たくても来れなかった場所に足を踏み入れているのだから、瞬きをするのさえも勿体ない。
脳裏にその姿を焼き付かせようと、目をかっぴろげて凝視していると、背後からポンッと肩を叩かれた。
「うひゃぁぁ!!」
驚きのあまり、可愛げのない悲鳴が響き渡った。
その瞬間、剣のぶつかり合う音は止まり、瞬時にざわめく現場。
「なんだ!?どうした!?──……ん?」
最初に駆けつけたのはアイヴァン様。
「ミーリアム?」
腰を抜かし、床にへたり込む私を見て驚いた表情を見せている。
「あ…」
何か言わないといけないのに、言葉が出てこない。
「こんな所までどうした?」
アイヴァン様の優しい声が遠く感じるほど、焦りと羞恥心で頭の中が一杯だった。どうしようもない自分に目頭が熱くなってくる。
「ごめん団長。俺が彼女を驚かせたみたい」
私を背にして庇うように前に出たのは、肩を叩いた張本人である副団長のルディガー・アマデウス。最年少で副団長まで昇りつめた逸材だと一時話題になっていた人。世間的にはイケメン部類らしいので、彼を目当てに、この演習場まで通う女性は後を絶たない。
(確かお姉様の3つ上だったはず……)
御年28歳の若輩者。そんな男のどこがいいのか私には理解ができない。
そもそも、こんな間抜けな姿をアイヴァン様に見せることになったのも全てこの人のせい。
(『驚かせたみたい』じゃないのよ!驚いたの!)
予定では、訓練を終えたアイヴァン様の元へ労いながら近づいて、さりげなく差し入れを渡して淑やかに去る。可憐で愛らしい完璧な婚約者を演じて、私の存在を周りに知らしめる作戦だったのに!
(……コイツのせいで……)
恨めしくルディガーを睨みつけた。
「あっれ~?女の子がいる」
「誰に会いに来たの?俺?」
「お前なわけないだろ!どちらかと言えば俺の方が確率高いだろ?」
そうこうしているうちに騎士達もぞろぞろ集まって、あっという間に周りを囲まれた。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
「あ!それ、差し入れ?」
ここまで男の人に囲まれることもないし、無遠慮でグイグイくる騎士のノリに付いて行けず、狼狽える事しかできない。
手に持っているバスケットを取られそうになったところで、大きな背中が私の前に立ちはだかった。
「お前たち!いい加減にしろ!困っているだろ!」
私の為に目を吊り上げ、声を張り上げて怒鳴りつける姿に、不謹慎だと分かっていても嬉しくて顔がニヤけてしまいそうになる。
(もう…好き)
ほぅとしながら頬を赤らめ、大きな背中を眺めていたが、その視線を遮るように突如、ルディガーが割って入って来た。
「そうそう。彼女は俺に会いに来てくれたんですよ。ね?」
「は?違いますよ」
満面の笑みで当然のように言ってくるが、不愉快だとばかりに顔を顰めて即否定。
ルディガーは正気か?と言わんばかりの表情を向けてくるが、己のその自信はどこから出てくるのか真剣に問いたい。
「私はアイヴァン様に会いに来たんです!」
見せつけるようにアイヴァン様の腕に抱き着きながら言い返してやったが、全員キョトンとしたまま首を傾げている。
「えっと……お嬢ちゃんが?団長に?」
何とか理解しようとしているのか、口元を引き攣らせながら再度問いかけてくる。
まるで私が会いに来たらおかしいと言っているような口ぶりに「ムッ」と眉を寄せた。
「あのね──!」
一歩踏み出し言い返そうとしたが、私が口を開くより先に肩を大きな腕に抱かれた。
「彼女は私の婚約者だ」
ギュッと抱きしめながらはっきり聞こえた『婚約者』という単語に、先程までの怒りは吹き飛び一気に有頂天。
年の差もあるし、出会った経緯があれな訳だから、もしかして関係を濁されるかな…って少しだけ心配してたけど、全くの杞憂だった。
そんな酔いしれている私の目の前では、騎士たちが「は?」と口を開けて呆気に取られていたが、アイヴァン様の真剣な眼差しに全員が我に返ったらしく
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!??!?」」
──と、地面が揺れるほどの叫び声をあげた。



