急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る

 団長様と言葉を交わしたことは無いが、何度か姿を見たことはあった。

 凱旋パレードや、国王陛下の後ろで護衛に付いている姿などをよく拝見していた。その都度、どうにかお近付きになれないものかと思っていたが、伯爵位の令嬢には団長様と接点を持つことは難しくて……それに、あれだけの容姿と人気を誇る団長様を世の女性が放っておくはずもない。きっと愛する女性がいるはずだと、いつしか想うことも諦めていた。

 まさかこんな夢のようなこと……いや、夢かも……?

 頬を強くつねるてみると、痛みで涙が滲んだ。これは夢ではなく現実だと実感できた。

「採用!!!!」
「その言葉、二度目だな」

 こんなの断る理由がない。
 団長様の気が変わらない内に婚約を結んでしまいたい。

「さあ、さあ、早く誓約書にサインしましょう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 逞しい腕を掴み、婚約の誓約書を書かせようとしたらまさかのストップがかかってしまった。

 え、もう気が変わってしまったの?こんなにがっつく令嬢は嫌だった?それよりも、私が見合うタイプじゃなかった?

 顔面蒼白になり、熱くなる目頭をなんとか誤魔化しながら団長様を見ると、温かくて大きな手が私の頬を包むように触れてきた。

「貴女は本当に私でいいのか?」
「え」
「恥ずかしながら、私はこの歳まで仕事一筋で恋というものをしたことも体験したことも無い。その……募集には貴女を愛してくれる方がいいと……」

 そう言えば確かに書いたな。
 ……欲を言えば、私を愛してくれる方がいいに決まっている。でも逆に()()()()()相手も少しは私に興味を持ってくれるはず。相手が興味を示さなければ、それは私に魅力がなく、努力が足りないということになる。それに関しては強制するつもりもなければ、責めるつもりもない。

 なにより、目の前のこの人を逃がす訳にはいかない。

「お言葉ですが、私はアイヴァン様を愛する自信()()ありません」
「自分の親よりも上の男を?」
「ええ。アイヴァン様は私に愛されればいいのです。そして、愛されるとはどういう事なのか、愛するとはどういう事なのかを知ればいいのです」

 大きくてごつごつとした手を取り、驚いたままの目を見ながら伝えた。私には覚悟があると、言い聞かせるように……

 アイヴァン様は一瞬だけ驚いた表情をしたが、すぐに優しい微笑みを浮かべながら「参った」と白旗を上げた。

 この瞬間、私の婚約者が決定した。

 その場では平静を装っていた私だが、内心どれだけ嬉しかったことか。脳内では花火が打ち上がりお祭り騒ぎだ。

 アイヴァン様の気が変わらぬ内に誓約書を書かせ、後に引けない状況にしてからお姉様と両親にアイヴァン様を紹介した。

 寝込んでいた両親は再び気を失い、お姉様は空いた口が塞がらないほど驚いていた。その時の顔といったらもう……スカッとしました。

 流石のお姉様も団長様が相手では何も言えず、唇を噛み締めながらも承諾してくれた。


 ***


 アイヴァン様の正式な婚約者になり、私の心は晴れ晴れとしていて常に頬の筋肉が緩みぱなっし。これが天にも昇る気持ちってやつか……と実感していた。

「ねぇ、ミーリ?本当に団長様と添い遂げるつもり?」
「なんです?まだ不満なんですか?」

 今日も今日とて、お姉様からの苦言……もとい、批判のお言葉。

 一度認めてはくれたものの、一晩寝てからよく考えたらやはり納得できないと言い始めたのだ。

「だって、歳が離れすぎてるわよ。お父様よりも歳が上なのよ!?」
「たかが一つじゃないですか。ほぼ同年代です。誤差ですよ誤差」
「あのねぇ……貴方との歳は縮まらないの。いくら鍛えている騎士とはいえ、数年経てば筋力も落ちるし介護の心配だってあるでしょう?」

 デメリットを挙げては懐柔しようとしてくるが、私のアイヴァン様への想いはそんな柔いものではない。

「もし騎士を辞めたらずっと一緒にいられますね」
「だから……」
「お姉様、そろそろ時間ですよ」
「あら、大変!本当だわ!」

 時計を指差せば、慌てたように部屋を出ていく。今日は婚約者殿とデートだと、朝から浮足立っていたのを知っていたので助かった。

「デートか……」

「ふぅ」と息を吐きながら呟いた。

 私もデートをしたいが、相手は恐ろしく激務だと言われる騎士団長。

 初めてここを訪れ日も、なんとか時間を作ってやって来てくれたと知った時には、言われようのない想いが込み上げた。

 まあ、そんなことでくよくよなんてしてられない。向こうが来れなければ私が行けばいいだけのこと。でも、お仕事の邪魔になって嫌われるようなことになったら元も子もない。

 邪魔にならないように遠くから顔を見るだけならば許されるはず。

「そうと決まれば」

 お出かけ用の帽子を被り、部屋を後にした。