急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る

 さて、やって参りました面接…もとい、お見合い当日。朝からソワソワと落ち着かない。

「いい加減落ち着きなさい」

 様子を見に来たお姉様に窘められた。

「まったく……そんなに気にしなくても大丈夫よ」
「え」
「あんな馬鹿げた張り紙に釣られる方はいないわよ」

 一瞬、私を気遣ってくれたのかと思ったが、そう都合よくいかないらしい。

 お姉様の言う事を鵜呑みにする訳じゃないが、私自身もあまり期待はしていない。それでも、いつも以上に綺麗に着飾ってはいる。

(まあ、一応……ね)

 逸る気持ちを落ち着かせ、面接会場という名の応接室へと足を進めた。

 いつもは何の気なしに開ける扉が、今日に限っては重く感じる。ギュッと手に力込め、ゆっくりと開いていく。

 ゴクッと息を飲み、扉が開かれた。

「……」

 広々とした部屋の中は人の気配はなく、ガラーンと静まり返っていた。

 そんな気はしてたし覚悟もしてた…でも、いざ現実を目の当たりにするとちょっと凹む。

(お姉様の嘲笑う顔が目に浮かぶな)

 自嘲しながら嘲笑う姉の姿を思い浮かべた。

 自ら婚約者を募る張り紙を貼り出すってことは、シュツェル家の令嬢(わたし)は訳あり令嬢だと思われたって事だよね。

(確かにその通りなんだけどさ)

 でもね。この張り紙作戦が最終の砦だったのは違いない訳で、その砦が崩れた今私に残された選択肢は二つ。

 一つはお父様の決めた相手と婚約する。
 二つ目は結婚そのものを諦めて修道院に入るか。

「究極の選択だわ」

 深いため息を吐きながら、テーブルに突っ伏した。

 お父様の決めた相手ならば家柄も容姿も中身も申し分ないはず。ただ、ガチムチとは程遠い軟弱者で歳も私と然程変わらない人が充てがわれる。

 同年代なんて青臭くて絶対に嫌だ。

 ──かと言って、恋愛ご法度の修道院へ入ろうものなら、恋愛をしてみたい私にとっては地獄に落とされたのと同じ。

(詰んだ…)

 考えれば考えるほどに絶望的な状況だが、為す術がない。

 頭を抱えていると、遠くの方からドタドタドタと大きな足音が近付いてくる。

 使用人らの足音にしては、床を踏む音が大きい。一体、何事だ?と思ったその時、バンッと扉が外れそうな勢いで開かれた。

「すまない!面接会場はここか!?」

 入ってきたのは騎士の制服を身にまとい、額に汗を浮かべたオジ様騎士だった。

 その体つきは服を着ていてもよく分かるほど筋肉質で、綺麗な逆三角形の肉体美。
 額から流れる汗をシャツで拭く姿は眼福で、時折チラッと見える腹筋は芸術を通り越して、もはや国宝。
 歳は45~46だろうか?あまり歳を感じさせない容姿にも目を引かれた。

 ざっくり言うと、私好みのイケオジが飛び込んで来た。

「採用!!!!!!」
「は?」

 こんなの、面接するまでもない。今を逃せばこれほどまでのイケオジは後にも先にもお目にかかることはないだろう。自らこんな冗談のような場に来たという事は、少なくとも私には脈があるということ。

 これは是が非でも、婚約を取り付けたい。

「貴方にします!いえ、貴方と結婚したいです!」

 勢いよく立ち上がりながら大声で宣言した。

「ははっ、まさか私が選ばれるとは思ってもなかったな……」

 目の前のおじ様は照れくさそうに頬を掻きながら笑っていた。そんな姿も愛らしくて、胸がキュンッと小さく跳ねた。

「私が言う事じゃないかもしれないが、そんな簡単に結婚相手を決めるものじゃない。私が悪い奴だったらどうする?」
「貴方になら騙されてもいい」
「参ったな…」

 本気でそう思った。例え、この人が悪人だろうが変人だろうが構わないと。
 むしろ、私の身を案じてくれるその優しさに好感度は絶賛爆上がり中。

 軽く引かれ気味で再び戸惑った表情を見せていたが、私の本気度が伝わったのか深い溜息を吐きながら履歴書なるものをテーブルに置いた。

「まずは私の事を知ってから考えてくれ」

 履歴書なんて見せられたところでこの気持ちが揺らぐことはないのだが、名前も分からないままのはいかんなと、履歴書に目を通した。

 名はアイヴァン・ウェブスター。歳は48歳だった。予想していた年齢よりも上で驚いたが、これは嬉しい誤算。

(……ん?)

 経歴を見ていて、ある場所で目が止まった。いや、止まざるを得なかった。

 だって、そこには騎士団長就任の文字があって……

 思わず顔を上げ、経歴とおじ様の顔を確かめるように何度も見直した。すると、私の視線に気がついたおじ様はニカッといい笑顔を返してくれた。

 してやったと言わんばかりの笑顔に完全に心を射貫かれた。

(間違いない……この人は団長様だわ)