氷の君に、恋の歌を。

なんとか蓮斗を家まで送り届けると、玄関先で彼は小さく息をついた。

「ここまででいい」

「だめ」

「え?」

「ちゃんと部屋まで行って、寝るところまで見届ける」

乃愛が真剣に言うと、蓮斗は珍しく少しだけ言葉に詰まった。

「……そんな顔で言うな」

「言うよ」

今だけは譲れない。
そう思って見上げると、蓮斗は観念したようにうなずいた。

部屋に入ってベッドに座った蓮斗は、いつもよりずっと大人しく見えた。
そんな姿が新鮮で、でも心配で、乃愛は机の上にあった水を手に取る。

「はい、飲んで」

「……ありがと」

素直に受け取る蓮斗を見て、乃愛は少しだけ胸がきゅっとした。
いつも強くて余裕のある彼が、今は自分の前でだけこんなふうに弱っている。

「熱、ありそう」

「少しな」

「少しじゃないと思う」

乃愛はそっと前髪に触れて、それから額に手を当てた。

熱い。
思ったよりずっと。

「ほんとだ……」

つぶやいた瞬間、蓮斗の手が乃愛の手首をやさしくつかむ。

「っ……」

「そのまま」

低い声。
熱のせいでいつもより甘く聞こえる。

「気持ちいい」

そんなことを言われたら、乃愛の心臓がもたない。

「蓮斗くん、今ずるいよ……」

「乃愛相手だと、たぶんいつもずるい」

少しだけ笑うその顔が、弱っているのにきれいで、乃愛はますます困ってしまう。