氷の君に、恋の歌を。

屋上から戻るころには、乃愛の頬の熱はまだ下がっていなかった。
歩くたび、さっきのキスを思い出して胸が苦しくなる。

「ちゃんと前見て歩け」

隣で蓮斗が言う。

「誰のせいだと思ってるの……」

小さく返すと、蓮斗は満足そうに目を細めた。

教室の前まで来たところで、彼はふいに立ち止まる。

「乃愛」

「なに?」

「また誰かにしつこくされたら、すぐ言え」

「うん」

「今度は、見てるだけじゃいられない」

その言葉にどきりとしながら、乃愛はこくりとうなずく。

文化祭が終わっても、恋は終わらない。
むしろここから、もっと甘く、もっと深くなっていく。

氷の君は今日も冷たい顔をしている。
けれど乃愛だけは知っている。
その奥にある熱も、嫉妬も、やさしさも。
そして、キスしたときにだけ見せる、少し余裕のない表情も。

全部、乃愛だけのものだと思うと、胸がくすぐったくなるほど幸せだった。