『君のいない秒針を、僕らは止める』



「ねえ、駆くん。さっきの質問、まだ答えてもらってないよ」


「え?」


「この街で一番、星が綺麗に見える場所」


美汐はラムネの瓶を両手で包むように持ち、上目遣いで僕を見た。


「……八月三十一日に、ウロボロス彗星が一番近くを通るんだ」


僕は瓶を見つめたまま、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。


「その夜に、潮見神社の裏にある『星霜の丘』に来いよ。あそこが一番、空が抜けてて、星が降るみたいに見えるから」


「星霜の丘……」


美汐はその名前を、愛おしいものを確かめるように口の中で繰り返した。


「うん。約束ね、駆くん。八月三十一日の夜、絶対にそこへ行くから」


彼女は満面の笑みを浮かべた。


その笑顔は、まるで世界中の光をすべて集めて味方にしたみたいに眩しくて。


僕は知らなかった。


彼女のその笑顔の裏に、どれほど深い覚悟と、限られた時間のカウントダウンが隠されていたのかを。


僕たちの時間は、この時すでに、永遠に続く眩しい迷宮の入り口へと向かって、静かに加速を始めていたんだ。