『君のいない秒針を、僕らは止める』



カシャ、という乾いたシャッター音が、静まり返った古い部室に小さく響いた。


「おいカケル、またそれかよ。お前、本当にそれ好きだなあ」


錆びついた天体望遠鏡の台座をスパナで締め直しながら、篠崎晴真が呆れたような声を出す。


短く刈り込んだ茶髪に、潮風で健康的に日焼けした肌。夏の制服の半袖を肩まで無造作に腕まくりした晴真は、額の汗を手の甲で拭いながら、僕の手元を顎で指した。


「いいだろ、別に。撮るものがないんだから、道具の手入れくらいしかやることがない」


僕は、膝の上に載せた古い一眼レフカメラ――ニコンの、完全にマニュアルでしか動かない、父親が学生時代に使っていたという骨董品――のレンズを、専用のクロスで丁寧に拭きながら答えた。


レンズのガラスの奥に、部室の窓から差し込む強烈な西日と、自分の死んだ魚のような目が小さく映り込んでいる。


ここは県立潮見高校の旧校舎の屋上近くにある、かつては物置だった一室。


現在は、部員が僕と晴真の二人しかいない、実質的な廃部寸前の「天文部」の部室だ。


部室とは名ばかりの、冷房もない、床の畳が擦り切れただけの空間。


それでも、ここから見上げる空だけは、無駄に広くて綺麗だった。