けれど、その日の昼休み。
少しだけ空気が変わる出来事があった。
「白石さんって、ノートきれいだよね」
声をかけてきたのは、同じクラスの男子だった。
人当たりのいい笑顔で、授業中にも何度か話したことがある。
「え、ほんと? ありがとう」
「この前の数学も分かりやすかったし。もしよかったら、次も見せてほしい」
自然な会話。
ただそれだけのはずだった。
でも、教室のドアのところでその様子を見ていた莉久は、ぴたりと足を止めていた。
いちかが気づいて振り向く。
すると莉久はいつもの無表情のまま、まっすぐこっちへ歩いてくる。
「莉久」
名前を呼ぶと、莉久は何も言わずにいちかの机の横に立った。
そして、その男子を見る。
「なにしてるの」
声は静かだった。
静かなのに、妙に温度が低い。
「あ、いや、ちょっとノート見せてもらおうかなって」
男子が少し気まずそうに笑う。
けれど莉久は表情を変えない。
「ふうん」
短い返事。
それだけなのに、空気が張る。
いちかは慌てて立ち上がった。
「り、莉久。ちょっと話してただけだよ」
「見てた」
「えっ」
「楽しそうだった」
そのひと言に、胸がどきっとする。
男子のほうも気をつかったのか、じゃあまた今度と小さく言ってその場を離れていった。
教室に少しだけ沈黙が落ちる。
「莉久……?」
呼ぶと、莉久はようやくいちかを見た。
でもその目は、いつもよりずっと甘くなくて、まっすぐで、少しだけ危ない。
少しだけ空気が変わる出来事があった。
「白石さんって、ノートきれいだよね」
声をかけてきたのは、同じクラスの男子だった。
人当たりのいい笑顔で、授業中にも何度か話したことがある。
「え、ほんと? ありがとう」
「この前の数学も分かりやすかったし。もしよかったら、次も見せてほしい」
自然な会話。
ただそれだけのはずだった。
でも、教室のドアのところでその様子を見ていた莉久は、ぴたりと足を止めていた。
いちかが気づいて振り向く。
すると莉久はいつもの無表情のまま、まっすぐこっちへ歩いてくる。
「莉久」
名前を呼ぶと、莉久は何も言わずにいちかの机の横に立った。
そして、その男子を見る。
「なにしてるの」
声は静かだった。
静かなのに、妙に温度が低い。
「あ、いや、ちょっとノート見せてもらおうかなって」
男子が少し気まずそうに笑う。
けれど莉久は表情を変えない。
「ふうん」
短い返事。
それだけなのに、空気が張る。
いちかは慌てて立ち上がった。
「り、莉久。ちょっと話してただけだよ」
「見てた」
「えっ」
「楽しそうだった」
そのひと言に、胸がどきっとする。
男子のほうも気をつかったのか、じゃあまた今度と小さく言ってその場を離れていった。
教室に少しだけ沈黙が落ちる。
「莉久……?」
呼ぶと、莉久はようやくいちかを見た。
でもその目は、いつもよりずっと甘くなくて、まっすぐで、少しだけ危ない。



