もう戻れない




数人で過ごすには、大きすぎる一戸建て。一部屋が住み慣れた一軒分の広さで落ち着かず、布団には入ったけど全く眠くならない。

目を瞑っても、肩を掴まれた時の感覚がフラッシュバックして、起き上がってしまう。額には大量の寝汗。手のひらは小刻みに震えていて、あの時のアドレナリンのおかげで何も思わなかったけど、ちゃんと怖かったんだと気づいて、一人でいるのが寂しくなった。


布団から出てリビングに向かうと、暖かな間接照明がついていて、ソファには澤村さんが横たわっていた。近くまで見に行くとパッチリと目を開けていて、黒目が動いて目が合った。




「びっくりした。澤村さん、起きてたの?」


澤「警護ですから。でも寝転んでたなんて、貴裕さんには言わないでくださいね。気を抜くなって怒られます。あの人、怒ると怖いから」




秀くんといい晃輝といい、私のまわりには怒らせるとやばい人が大勢いる。


何も言わなくても、立ち上がって冷蔵庫から水を取ってきてくれて、受け取ると〝座って話しませんか〟とソファに誘導された。




澤「眠くない時に横になっても、体が疲れるだけです。眠くなるまで、お付き合いします」


「ありがとう。ちょっと寂しかったから、嬉しい」


澤「…沙和さんが寂しいと思うこと、あるんですね。会長が亡くなられても秀さんが亡くなられても、泣き言一つ漏らさなかった沙和さんが」




私だって寂しいと思うことはある。身近な人を二人も一気に失って、寂しくないわけないし、泣きたい。でも私が泣くのは、真犯人を見つけてからと決めている。


澤村さんを睨むと、〝失礼しました〟とそれ以上は何も言わなくなった。




「まだ泣かない。もうちょっと先に泣く予定はしてるけど」


澤「泣くのに、予定なんてあるんですね。涙活か何かですか?」


「そんな綺麗なもんじゃない」




もらった水を一口飲み、喉を潤す。味はないのに、喉が潤うと美味しいと思う。真犯人だと思われる人が目の前にいて、もうすぐ捕まえられるかもしれない嬉しさからだろうか。




「ねぇ、澤村さん」


澤「はい」


「今日話聞いたけど、もう少し聞きたいんだ。良いかな?」


澤「ええ、もちろん。俺が真犯人で決まりですか?」


「……エスパーですね」




この状況で、澤村さんが口封じで私を殺してくることはないと思う。誰もいないから絶好のチャンスではあるけど、澤村さんしかいない今、自分は犯人ではないと言い逃れできなくなる。


私もそれを狙って話しかけたんだけど。