そして、数年はかかると見込まれていた魔王討伐の旅は、なんと一か月弱で終わった。
終わらせてしまったのだ。
この勇者様が。
旅立って早々、一行は街道を襲っていたドラゴンと遭遇した。
騎士たちが武器を構え、ミレーヌが聖なる魔力を練り始める中、怜司だけが空を飛ぶ黒い巨体を見上げていた。
「あれ、殺さないで捕まえられない?」
「はい!?」
「移動に使えそうだ」
「ドラゴンを!? 魔物ですよ!???」
「馬より速いよね? 空を飛ぶんだし」
「そりゃ速いけど!」
怜司は討伐せずに捕縛した。
暴れて拘束を振り解こうとするドラゴンだったが、何やら魔法書片手の怜司が囁きかけると巨体をビクゥッと震えさせて、それからは仔犬のように従順になってしまったのだ。
……ミレーヌは彼が何をしたのか、怖くて最後まで聞き出すことができなかった……
しかもドラゴンはめちゃくちゃ怜司に媚びるような態度に変わった。
魔物の王のプライドがへし折られてぽっきり割られてると見た。怖い。本当に怖かった。勇者が怖い。
さらに、魔法使いたちから飛行魔法や使役魔法の仕組みを聞き出し、ドラゴンを移動手段として利用できないか本気だったようで検討を始めた。
結果、馬車で何日もかかる距離を本当に空路で飛び越え、魔王軍の拠点を片っ端から潰していったのだ。
正面から攻めれば時間のかかる城塞は上空から偵察し、補給路を確認し、断つ。なんなら強奪もした。
魔物の群れと遭遇すれば聖女の力で弱体化させ、騎士たちと分断して各個撃破する。
魔王軍の幹部を捕らえれば、怜司は敵対する理由から軍の構成、物資の調達先、魔王城の防衛体制まで聞き出した。
……暴露せねばならない精神状態に追い詰める自白魔法を使って。
それ禁忌なんだけど!? と焦るミレーヌに返ってきた言葉は、
「僕、この世界の人間じゃないんで」
だった。
待って。この男を縛るルール、もしかしてこの世界にない……?
戦慄するミレーヌたちをよそに、本人はひたすら効率を追求した魔王討伐へと突き進んでいた。
途中、騎士団長が休息日の設定を提案した。
「勇者殿。このままでは皆の体力が持ちませぬ」
「そうですね。明日は休みにしましょう」
「おお……!」
「その間に次の三拠点の攻略順を組み直します」
「勇者殿も休んでくだされ!」
ミレーヌも疲れ果てていた。
「なんでそんなに急ぐのよ!」
「言っただろ。帰りたいんだよ」
恋人のいる元の世界へ。
「数年が一か月になったって、向こうじゃ一か月しか経ってないかもしれないでしょ!」
「一か月も突然いなくなった時点で十分長いよ」
怜司は最初から一貫している。
魔王を倒したいのではないし、勇者として名を上げたいわけでもない。
――元の世界へ帰りたい。
そのために必要だから魔王を倒す。
しかも、待っている相手がいるから最短で。
「なんで勇者様、魔王軍の弱点探すの上手すぎるんですか!?」
魔王城まで残り数日の地点で、ミレーヌはとうとう尋ねた。
「逆の立場で考えればわかるだろ。僕が魔王なら、どこを守って、どこを捨てて価値を取るか慎重に考えればいい」
「具体的すぎるのよ!」
ミレーヌの悲鳴も虚しく、一行は魔王城へ到達し、さっくり教会と国王から預かってきた聖剣でラスボスの魔王を倒したのだった。
それこそ、なろう系小説なら「ボス戦の見所をナレ死で片付けるとかw」と読者からdisられそうな時短攻略だった。
しかし残念なことに、この勇者は毒コメ如きでは揺らぎそうもない。
そもそも恋人以外の他人からの評価を聞かないタイプのようである……
「あ、あの。これだと今代の勇者様の魔王討伐伝記に必要な記録が足りないのですがっ」
同行していた記録係の騎士が半泣きだった。
ミレーヌは自分も泣きたいと思った。
『今代の勇者、レイジ・タカセは常識の通じぬ男だった』
伝記はこの一言で始めろと、後で執筆担当者に言い聞かせねばと誓ったミレーヌだった。
魔王を討ち、残党勢力の処理について周辺の領主と騎士団へ指示を残し、帰りもドラゴンだった。
王都へ戻ったミレーヌは、地面に降りた途端に膝をついた。
「し、死ぬかと思っ……っ」
「君が死んだら、次の魔王復活までの抑えが効かなくなるでしょ」
「だったらもうちょっと聖女を大事に運んで!」
「ちゃんと落下防止の装具はつけてたじゃないか」
「そういう問題じゃないのよ!」
「それより」
「聞いてよ!」
怜司は王都の大通りを見た。
「……あのカフェ、飲み物やお菓子に君の聖なる魔力を込めた聖水や聖油を使ってるんだって? 国民の邪悪への耐久性を高めるためだって聞いたよ」
「は、はい……」
たいやきカフェが国内数百店舗にまで拡大したのは、単に安くて美味しいからではなかった。
聖女ミレーヌが作る聖水や聖油を薄めて配合した飲食物には、邪気や魔物の瘴気に対する抵抗力を高める効果がある。
教会で聖水を受け取るより気軽で、子供にも摂取させやすい。むしろ喜んで甘い飲み物を飲みたがり、お菓子を食べたがる。
代金は安めに設定してあるが、原材料費と人件費などの諸経費がきちんとまかなえる仕組みも作り込んである。
結果として、たいやきカフェは飲食店であると同時に、国民へ聖女の加護を広く行き渡らせる仕組みにもなっていた。
今や他国から視察が来るほどである。
「勇者様。……私、今ならわかります」
ミレーヌは両手で顔を覆った。
「パクりなんかせずに、シンボルもカフェのシステムも一から作ればよかったって……最初から聖女カフェにすればよかったああああ!」
魂からの叫びだった。
どうにも、この男が勇者召喚されたのは、ミレーヌが彼のカフェをパクったのが縁を引き寄せてしまったのでは? との疑惑に気づいたからだ。
ちゃんと一からオリジナリティを追求した店を作っていたら、きっともっと、王道で素敵な、ちゃんと話のわかる(ここ一番大事)勇者が来てくれたかもしれない……!
(同じ権利者なら、こいつじゃなくてあの美人な恋人さんのほうが絶対良かったあああああ!)
などと考えて、いや待てと我に返った。
あの和風美人の一人で済むか?
怜司の性格と能力を考えると、恋人が召喚されたとき自分も強引に付いてくる可能性も……
なにそれこわい。
「いや、店のレイアウトや提供システムは僕らも海外のチェーン店からほとんどそのまま持ってきてるから、真似してくれても構わない」
「…………は?」
ミレーヌが顔を上げた。
「今、なんて?」
「だから、カフェの仕組み自体は別にいいよ。廉価な聖力提供システムとしても、むしろよくできてるし」
「は?」
「チェーンストア理論って知らない? 日本や諸外国でチェーンやフランチャイズ化した事業って、ほとんどはアメリカや国外で成功した事業システムをそのまま持ってきて再現したものだよ。コンビニとかスーパーとかファストフードとか。もちろんカフェもね」
日本でも有名だったシアトル系のカフェなど典型である。
「はー!?? ちょっと待って。あんたたちのたいやきくんカフェも海外からのパクりだったわけ!?」
すると怜司は心外そうな顔になった。
「日本と海外じゃ法律が違うからね。そこはちゃんと弁護士を入れてチェックしたよ。……ま、君みたいな、ほとんど丸ごと模倣ってのはさすがにない」
「……あの。じゃあ、あなたがあんなに怒ってたのって」
「僕が許せなかったのは、シンボルマークの〝たいやきくん〟が雑で怖いテイストに変えられてたからさ」
「は?」
ミレーヌは止まった。
怜司は構わず歩いていく。
「待って! 数百店舗閉鎖しろって言ったわよね!?」
「言ったね」
「魔王討伐まで拒否したわよね!?」
「うん」
「私、毎日泣いたんだけど!?」
「知ってる」
「たいやきくんの顔が怖かったから!?」
「最愛の人をモデルにしたキャラクターを勝手に使われた上、可愛くなくされてたんだよ? 嫌に決まってるだろ」
「もっと高尚な理由つけなさいよね!?」
ミレーヌの絶叫が、魔王討伐を祝う王都に響いた。
「愛が一番大事だもの。僕にとっては、ね」
ドヤ顔で決めた勇者を殴りたくなったのは自分だけだろうか。
「もうこの勇者やだああああぁあ!」
世話になったのは確かだが、魔王も倒したことだし、もう頼むから早く還ってほしかった。
王城へ帰還すると、国王以下、重臣たち総出の歓迎を受けた。
数年を覚悟していた魔王討伐が、一か月も経たずに終わったのである。
王都では既に祝祭の準備が始まり、勇者の帰還を聞いた民衆が王城前へ集まっていた。
だが当の怜司は、凱旋式より先に仕事を片づけた。
「金貨、宝石、魔道具については現地で目録を作成済みです。魔王軍の所有物だったのか、略奪品なのか判別できないものは別にしてあります。元の所有者を特定できるなら返還したほうがいいでしょう」
勇者というより、優秀な文官のような口振りだ。
「勇者殿……」
「はい?」
「魔王を討ち果たして帰還した直後に、戦利品の明細を提出する勇者は、恐らくそなたが歴史上初であろう……」
歴代の勇者にそんな記録はなかった。
比較的近代の勇者だと他国の王族出身者がいたが、彼とて報告書をまとめる程度だったと記憶している。
「曖昧にすると後で揉めるので」
「そなたらしいな……」
国王は疲れた笑みを浮かべた。諦めの笑みともいう。
ちなみに明細は表になっていて、ものすごく見やすかった。この国でも今度、この仕様が採用されそうな見込みである。
「それと帰還術式の準備は?」
「既に始めさせておる。明日には問題なく整うであろう」
「ありがとうございます」
その返事の嬉しそうなことときたら。
「そんなに急いで帰るの?」
横からミレーヌが聞く。
「当たり前だろ」
「国を救った勇者なんだから、祝賀会くらい出ればいいのに」
「最愛をこれ以上待たせるほうが嫌だよ」
「はいはい。ごちそうさま」
あの和風美人と早くしっぽりしけ込みたいということなのだろう。
(あーあ。普通、ここは聖女と勇者のラブロマンスになるところでしょ?)
ふとそんなことを考えたミレーヌだったが、国王と話している怜司を見て「ないわー」と首を振った。
確かに怜司は顔が良かったし、数年かかる魔王討伐を一か月で片付けるほど有能だった。
だがこれが彼氏になったら、きっと一生振り回されて自分は叫んでばかりな気がする。
(恋人さん……この男の、どこが良かったの……?)
召喚勇者があの美人だったなら、きっと友達になれただろうに。
そう思うとミレーヌはとても残念な気分になった。
本当に、頼むからあっちが勇者で来て欲しかった……っ!
終わらせてしまったのだ。
この勇者様が。
旅立って早々、一行は街道を襲っていたドラゴンと遭遇した。
騎士たちが武器を構え、ミレーヌが聖なる魔力を練り始める中、怜司だけが空を飛ぶ黒い巨体を見上げていた。
「あれ、殺さないで捕まえられない?」
「はい!?」
「移動に使えそうだ」
「ドラゴンを!? 魔物ですよ!???」
「馬より速いよね? 空を飛ぶんだし」
「そりゃ速いけど!」
怜司は討伐せずに捕縛した。
暴れて拘束を振り解こうとするドラゴンだったが、何やら魔法書片手の怜司が囁きかけると巨体をビクゥッと震えさせて、それからは仔犬のように従順になってしまったのだ。
……ミレーヌは彼が何をしたのか、怖くて最後まで聞き出すことができなかった……
しかもドラゴンはめちゃくちゃ怜司に媚びるような態度に変わった。
魔物の王のプライドがへし折られてぽっきり割られてると見た。怖い。本当に怖かった。勇者が怖い。
さらに、魔法使いたちから飛行魔法や使役魔法の仕組みを聞き出し、ドラゴンを移動手段として利用できないか本気だったようで検討を始めた。
結果、馬車で何日もかかる距離を本当に空路で飛び越え、魔王軍の拠点を片っ端から潰していったのだ。
正面から攻めれば時間のかかる城塞は上空から偵察し、補給路を確認し、断つ。なんなら強奪もした。
魔物の群れと遭遇すれば聖女の力で弱体化させ、騎士たちと分断して各個撃破する。
魔王軍の幹部を捕らえれば、怜司は敵対する理由から軍の構成、物資の調達先、魔王城の防衛体制まで聞き出した。
……暴露せねばならない精神状態に追い詰める自白魔法を使って。
それ禁忌なんだけど!? と焦るミレーヌに返ってきた言葉は、
「僕、この世界の人間じゃないんで」
だった。
待って。この男を縛るルール、もしかしてこの世界にない……?
戦慄するミレーヌたちをよそに、本人はひたすら効率を追求した魔王討伐へと突き進んでいた。
途中、騎士団長が休息日の設定を提案した。
「勇者殿。このままでは皆の体力が持ちませぬ」
「そうですね。明日は休みにしましょう」
「おお……!」
「その間に次の三拠点の攻略順を組み直します」
「勇者殿も休んでくだされ!」
ミレーヌも疲れ果てていた。
「なんでそんなに急ぐのよ!」
「言っただろ。帰りたいんだよ」
恋人のいる元の世界へ。
「数年が一か月になったって、向こうじゃ一か月しか経ってないかもしれないでしょ!」
「一か月も突然いなくなった時点で十分長いよ」
怜司は最初から一貫している。
魔王を倒したいのではないし、勇者として名を上げたいわけでもない。
――元の世界へ帰りたい。
そのために必要だから魔王を倒す。
しかも、待っている相手がいるから最短で。
「なんで勇者様、魔王軍の弱点探すの上手すぎるんですか!?」
魔王城まで残り数日の地点で、ミレーヌはとうとう尋ねた。
「逆の立場で考えればわかるだろ。僕が魔王なら、どこを守って、どこを捨てて価値を取るか慎重に考えればいい」
「具体的すぎるのよ!」
ミレーヌの悲鳴も虚しく、一行は魔王城へ到達し、さっくり教会と国王から預かってきた聖剣でラスボスの魔王を倒したのだった。
それこそ、なろう系小説なら「ボス戦の見所をナレ死で片付けるとかw」と読者からdisられそうな時短攻略だった。
しかし残念なことに、この勇者は毒コメ如きでは揺らぎそうもない。
そもそも恋人以外の他人からの評価を聞かないタイプのようである……
「あ、あの。これだと今代の勇者様の魔王討伐伝記に必要な記録が足りないのですがっ」
同行していた記録係の騎士が半泣きだった。
ミレーヌは自分も泣きたいと思った。
『今代の勇者、レイジ・タカセは常識の通じぬ男だった』
伝記はこの一言で始めろと、後で執筆担当者に言い聞かせねばと誓ったミレーヌだった。
魔王を討ち、残党勢力の処理について周辺の領主と騎士団へ指示を残し、帰りもドラゴンだった。
王都へ戻ったミレーヌは、地面に降りた途端に膝をついた。
「し、死ぬかと思っ……っ」
「君が死んだら、次の魔王復活までの抑えが効かなくなるでしょ」
「だったらもうちょっと聖女を大事に運んで!」
「ちゃんと落下防止の装具はつけてたじゃないか」
「そういう問題じゃないのよ!」
「それより」
「聞いてよ!」
怜司は王都の大通りを見た。
「……あのカフェ、飲み物やお菓子に君の聖なる魔力を込めた聖水や聖油を使ってるんだって? 国民の邪悪への耐久性を高めるためだって聞いたよ」
「は、はい……」
たいやきカフェが国内数百店舗にまで拡大したのは、単に安くて美味しいからではなかった。
聖女ミレーヌが作る聖水や聖油を薄めて配合した飲食物には、邪気や魔物の瘴気に対する抵抗力を高める効果がある。
教会で聖水を受け取るより気軽で、子供にも摂取させやすい。むしろ喜んで甘い飲み物を飲みたがり、お菓子を食べたがる。
代金は安めに設定してあるが、原材料費と人件費などの諸経費がきちんとまかなえる仕組みも作り込んである。
結果として、たいやきカフェは飲食店であると同時に、国民へ聖女の加護を広く行き渡らせる仕組みにもなっていた。
今や他国から視察が来るほどである。
「勇者様。……私、今ならわかります」
ミレーヌは両手で顔を覆った。
「パクりなんかせずに、シンボルもカフェのシステムも一から作ればよかったって……最初から聖女カフェにすればよかったああああ!」
魂からの叫びだった。
どうにも、この男が勇者召喚されたのは、ミレーヌが彼のカフェをパクったのが縁を引き寄せてしまったのでは? との疑惑に気づいたからだ。
ちゃんと一からオリジナリティを追求した店を作っていたら、きっともっと、王道で素敵な、ちゃんと話のわかる(ここ一番大事)勇者が来てくれたかもしれない……!
(同じ権利者なら、こいつじゃなくてあの美人な恋人さんのほうが絶対良かったあああああ!)
などと考えて、いや待てと我に返った。
あの和風美人の一人で済むか?
怜司の性格と能力を考えると、恋人が召喚されたとき自分も強引に付いてくる可能性も……
なにそれこわい。
「いや、店のレイアウトや提供システムは僕らも海外のチェーン店からほとんどそのまま持ってきてるから、真似してくれても構わない」
「…………は?」
ミレーヌが顔を上げた。
「今、なんて?」
「だから、カフェの仕組み自体は別にいいよ。廉価な聖力提供システムとしても、むしろよくできてるし」
「は?」
「チェーンストア理論って知らない? 日本や諸外国でチェーンやフランチャイズ化した事業って、ほとんどはアメリカや国外で成功した事業システムをそのまま持ってきて再現したものだよ。コンビニとかスーパーとかファストフードとか。もちろんカフェもね」
日本でも有名だったシアトル系のカフェなど典型である。
「はー!?? ちょっと待って。あんたたちのたいやきくんカフェも海外からのパクりだったわけ!?」
すると怜司は心外そうな顔になった。
「日本と海外じゃ法律が違うからね。そこはちゃんと弁護士を入れてチェックしたよ。……ま、君みたいな、ほとんど丸ごと模倣ってのはさすがにない」
「……あの。じゃあ、あなたがあんなに怒ってたのって」
「僕が許せなかったのは、シンボルマークの〝たいやきくん〟が雑で怖いテイストに変えられてたからさ」
「は?」
ミレーヌは止まった。
怜司は構わず歩いていく。
「待って! 数百店舗閉鎖しろって言ったわよね!?」
「言ったね」
「魔王討伐まで拒否したわよね!?」
「うん」
「私、毎日泣いたんだけど!?」
「知ってる」
「たいやきくんの顔が怖かったから!?」
「最愛の人をモデルにしたキャラクターを勝手に使われた上、可愛くなくされてたんだよ? 嫌に決まってるだろ」
「もっと高尚な理由つけなさいよね!?」
ミレーヌの絶叫が、魔王討伐を祝う王都に響いた。
「愛が一番大事だもの。僕にとっては、ね」
ドヤ顔で決めた勇者を殴りたくなったのは自分だけだろうか。
「もうこの勇者やだああああぁあ!」
世話になったのは確かだが、魔王も倒したことだし、もう頼むから早く還ってほしかった。
王城へ帰還すると、国王以下、重臣たち総出の歓迎を受けた。
数年を覚悟していた魔王討伐が、一か月も経たずに終わったのである。
王都では既に祝祭の準備が始まり、勇者の帰還を聞いた民衆が王城前へ集まっていた。
だが当の怜司は、凱旋式より先に仕事を片づけた。
「金貨、宝石、魔道具については現地で目録を作成済みです。魔王軍の所有物だったのか、略奪品なのか判別できないものは別にしてあります。元の所有者を特定できるなら返還したほうがいいでしょう」
勇者というより、優秀な文官のような口振りだ。
「勇者殿……」
「はい?」
「魔王を討ち果たして帰還した直後に、戦利品の明細を提出する勇者は、恐らくそなたが歴史上初であろう……」
歴代の勇者にそんな記録はなかった。
比較的近代の勇者だと他国の王族出身者がいたが、彼とて報告書をまとめる程度だったと記憶している。
「曖昧にすると後で揉めるので」
「そなたらしいな……」
国王は疲れた笑みを浮かべた。諦めの笑みともいう。
ちなみに明細は表になっていて、ものすごく見やすかった。この国でも今度、この仕様が採用されそうな見込みである。
「それと帰還術式の準備は?」
「既に始めさせておる。明日には問題なく整うであろう」
「ありがとうございます」
その返事の嬉しそうなことときたら。
「そんなに急いで帰るの?」
横からミレーヌが聞く。
「当たり前だろ」
「国を救った勇者なんだから、祝賀会くらい出ればいいのに」
「最愛をこれ以上待たせるほうが嫌だよ」
「はいはい。ごちそうさま」
あの和風美人と早くしっぽりしけ込みたいということなのだろう。
(あーあ。普通、ここは聖女と勇者のラブロマンスになるところでしょ?)
ふとそんなことを考えたミレーヌだったが、国王と話している怜司を見て「ないわー」と首を振った。
確かに怜司は顔が良かったし、数年かかる魔王討伐を一か月で片付けるほど有能だった。
だがこれが彼氏になったら、きっと一生振り回されて自分は叫んでばかりな気がする。
(恋人さん……この男の、どこが良かったの……?)
召喚勇者があの美人だったなら、きっと友達になれただろうに。
そう思うとミレーヌはとても残念な気分になった。
本当に、頼むからあっちが勇者で来て欲しかった……っ!



