勇者として異世界召喚されたら、転生聖女に恋人と作ったカフェを丸ごとパクられていたので、反省するまで魔王討伐はしません


  ☆ ☆ ☆


「勇者様ああああ!」

 翌朝、怜司が自室で朝食を取っているところへ、ミレーヌが寝癖のついたままの髪で飛び込んできた。

「今度は何?」
「夢! 夢を見ました! あなたの最愛の方が出てきました!」

 怜司の手が止まった。

「……どんな人でした?」
「黒髪で、赤い目で、ものすごい和風美人でした。やたら格好良くて雰囲気あって!」
「それで?」

 食いつくところがそこなのか。

「たいやきくんのモデルだって」
「何を話した?」
「パクリは良くないからちゃんと謝れ。でも、店を全部潰したら働いてる人が困るから、それも違うって」
「…………」
「元の世界で大好きだったたいやきくんカフェへのオマージュですってゴリ押しして、あなたにひたすら頭を下げて打開案を引き出せって」

 怜司は額に手を当てた。

「……言いそう」
「やっぱり本人!?」
「夢だろう?」
「でも本人じゃない!? 世界観的にこういう現象アリでは!?」
「少なくとも、君の話を聞く限りではね」

「あと、あなたをあんまり困らせないでやってって」

 怜司が黙った。

「…………」
「勇者様?」
「他には? 何か言ってなかった?」

 ミレーヌは夢の最後を思い出した。

「急にいなくなったから、帰ってきたら言いたいことがいっぱいあるって。それから……早く帰してやってって」

 怜司は椅子の背にもたれた。

「……そう」
「やっぱり心配してますよね……」
「だろうね。僕だって逆の立場なら世界を滅ぼしたくなると思うし」

 このときの怜司の台詞を聞き流したことを、後にミレーヌは後悔することになる。

「じゃあ早く魔王倒しに行きましょうよ!」
「話が飛んだね」
「飛んでないもん!」

 怜司はテーブルの上のカップを置いた。

「仕方ない。あの人がそう言ったとして、落としどころを考えよう」
「やったあああああ!」

 ミレーヌは両手を上げた。

「ただし。君がデザインの無断使用とビジネスモデルの模倣をした事実が消えたわけじゃないからね」
「はい……」

 しっかり釘を刺されてしまった。

「まず、神の啓示で自分が一から生み出したという説明を全部撤回する」
「はい」
「それから、今後どうするかは王家も交えて整理する。数百店舗を一斉に閉めて従業員を路頭に迷わせるのは、最愛が望んでない。君が見た夢が本当だったとしても、確かにそう言いそうな人なんだ。……それなら僕もやらない」
「はい!」

 そこが一番重要だ。

「でも、同じものをそのまま使い続けていいとも言ってないからね」
「はい……」

「既存店舗については経営を分離して収支を明確にする。僕が元の世界へ帰還できた場合でも、こちらで得た利益から、権利料に相当する金額を積み立てておくように。いつかまた来れる日が来るかもしれないし」
「わかりました!」

「王家にも説明するよ」
「お願いします!」



 そこからは早かった。
 国王、宰相、商務を担当する官僚、たいやきカフェの経営責任者まで集め、是正計画を作った。

 ミレーヌは神の啓示という説明を撤回し、前世で愛していた店を異世界で再現したものだったと公表した。

 店舗は閉鎖要求を撤回し、従業員の雇用を守ることも許可する。
 ただし新規出店はいったん停止し、既存店については今後の扱いを整理する。



 怜司は話し合いの途中で、商品の原価管理と物流に無駄が多いことにも気づいた。

「この三つの領地、同じ食材を別々の商人から仕入れてるの? まとめたほうが安くなるでしょ? できたら名産地と直接契約できるといいね。商人とは物流契約で」
「はい」
「あと王都中央店。客が入口で物販を見て止まるから、飲食利用者の列とぶつかってる。売場を分けたほうがいい」
「はい」
「地方店ごとに売上の集計方法が違うのも直して」
「はい……って、ちょっと待って。なんで経営改善まで始めてるの?」
「問題が見えたから」
「勇者やれよ!!」

 腹の底からミレーヌは叫んだ。



 ともあれ、たいやきカフェを巡る問題には当面の決着がついた。

 国王はこの知らせを聞くなり、翌朝には魔王討伐隊の出発式を行うと言い出した。

「明日?」

 怜司が確認すると、国王は何度も頷いた。

「一刻を争うのだ、勇者殿!」
「わかりました。僕も急ぎたいので」
「おお!」

 国王以下、重臣たちから歓声が上がった。

 ミレーヌも胸を撫で下ろす。
 ようやく勇者が働く。

「ところで、魔王討伐には通常どのくらいかかるんですか?」

 怜司の問いに、騎士団長が地図を広げた。

「まず魔王領までの移動だけで数か月。途中には魔物の支配地域がございます。拠点を一つずつ攻略し、安全な補給路を確保しながら進む必要がありますので……」
「全部合わせて?」
「過去の勇者では、二年から三年ほど」
「却下」
「何が!?」
「そんなにかけられません」
「しかし勇者殿!」
「最愛の人を何年も待たせる気はないので。最短で行きましょう」
「最短と言われましても!」

「明日までに魔王軍の拠点、街道、補給路、飛行可能な魔物の生息地をまとめた資料を用意してください」
「飛行可能な魔物?」
「空路を使えれば早いでしょう?」

 騎士団長は答えられなかった。
 答えてはならぬ気がした。