青く、淡い、フィルターの向こう側  -あの頃、好きと言えなかった君と大学で再会した-

恋とは厄介なものである。

すると夏希は眇めた視線を寄越し肩で息をつく。そして先ほどまでしゃがみ込んでいた身体をゆっくりと起こした。

由紀よりも高い位置にある二つの瞳。
その瞳は今までにない真剣な色を宿し由紀を見下ろして、慎重に唇を開く。

「忘れてないし。思い出さんようにしただけで普通に覚えとる。なんなら映画が完成してからちゃんと話すつもりやったし」

はっきりと紡がれた言葉に由紀の肌が栗立った。

なんだ、そっか。

ちゃんと考えてくれていたのかと、ほっとして一気に肩の力が抜ける。
安堵すると公園を吹き抜ける風が再び冷たいと感じ取ることが出来た。と同時に視線は冬空へ、時間経過で太陽光のニュアンスが変わっていることに気づく。

そうだ、緊張している場合じゃない。

由紀のやる気スイッチがやっとオンに切り替わったのだ。
一方の夏希はというと、由紀とは違う方向にやる気スイッチが入ったらしい。

真剣な面差しのまま、今までになく意地悪に問う。

「……それで、今もあんなに固くなるぐらい、ずっと俺のこと考えてくれてたってこと?」

「あっ。完成してからでいいよ」

「なんでよ。普通そこで逃げる?」

視線が訝しげなものへと変わり突っ込まれた。
確かに先に踏み込んだのは由紀なので、夏希の言葉は至極真っ当なものかもしれない。

また言葉足らずと指摘されないように、由紀は慌てて理由を告げる。

「朝日が逃げそうやし」

「そっちは毎日いつも通り登ってくるから大丈夫やろ。むしろ由紀の方が怪しいからな」

どうやら安全安心保証の太陽と自分では信用度が違うらしい。

夏希が一歩距離を詰める。
そして眉根を寄せ囲い込むように尋ねるのだ。

「ーーなぁ。つまり由紀は俺のこと意識してくれたってことでいいの?」

まるで尋問。石端を叩くように慎重なくせに、意地が悪い。

しかし夏希の瞳から逃れることは出来なかった。
追求する視線に促され、由紀は短く頷いた。

「……そう、やね。意識っていうか同じ気持ちやといいなって……」

絞り出させられた言葉は、普段と違って歯切れが悪い。
しかし夏希は、ほんの少しだけ微笑んだ。

「そっか……」

先ほどまでの胡乱な眼差しを解いて、柔らかな吐息を溢したのだ。

「やったら、もういいか……」

「え?」

「好きやで」

見上げて、止まって、視線が重なり釘付けになる。
視界に映るのは頬に朱色がさした夏希の顔。

「中学の頃から好きやった」

「ほんと……?」

陶然と言葉が漏れた。
渇いた下唇を噛み締め濡らしながら、初恋が実った戸惑いを隠しきれずに。

「本当。逃したくない。俺が独り占めしてもいい?」

確認するように問われ、由紀はただただ頷いた。
それからやっと音になる。

「……私やって夏希が好きやもん」