青く、淡い、フィルターの向こう側  -あの頃、好きと言えなかった君と大学で再会した-

――――そんな風に考え、恋を持て余していたある日、食堂で奈那に問われた。

「ゆっくんさぁ、素直に言って付き合ったらいいのにぃ。夏希くん好きなんやろ?」

「えっ、なに?急に」

付き合ったらいい、奈那がそんなことを勧めてくるのは少し意外だった。

確かにこれまで夏希と付き合っているのか問われることはあったが、奈那は中学、高校と、一貫してこう言っていた。

『学生の恋って無駄やない?大人の出会いに期待してさぁ、自分のことだけ集中するほうがタイパいいよぉ。やから告られても面倒なだけなんよねぇ』

数多の男子を振ってきた小柄で華奢な可憐系タイパ女子。
大学でも奈那は変わらずモテているが浮いた話は一切なく、講義とバイトとメイクに勤しむ計算に計算を重ねた生活を送っている彼女。

そんなタイパ女子が”無駄”と評価することを何故かいま、由紀に勧めている。

「いっつも避けよるし。なんかあったんやろ?」

「……まぁ、何もなくはないけど……何か起きる前に失敗した感じ。やけん気まずいって感じかなぁ」

由紀はアイスティーの氷をかき混ぜながら答えた。
この氷のように、そのうち解けて混ざって消えてしまうんじゃないかと思うような恋なので。

「え、待って。それ答えやないって」
「ん?」

「好きなんやろ?好き、好きって分かる?」
「……う、うん」

奈那はストレートに追及してくる。

そんな風に、好きか好きかと問われると、縦に頷くほかはない。

「あ~、やっぱり。なんかいつものゆっくんと違うもん。早く好きって言っちゃっえばいいのに、絶対脈あるじゃん。ゆっくんタイパ悪いよ」

そこでタイパを持ちだすのかと内心ツッコミつつも、どうして奈那も悟も当人でないのに勝機があると確信できるのだろうか。
由紀自身ですら、やっと最近になって両想いだったのだと気付いたぐらいなのに。

「いいって。今は何もしないことが策なので」

「なにその侍みたいな感じ」

じっとりとした視線を受け苦笑いを零せばタイミング良くスマホが震えた。

『編集終わった。データ送るわ。DLリンクは以下で。意見聞きたいし都合いいとき教えてや』

夏希からの通知だった。簡潔なメッセージだが由紀にとっては朗報である。

「ほら大丈夫。夏希から連絡あったし。意見聞きたいってさ」

嬉々として伝えると奈那は大きな瞳を瞬いたあと、ぎゅん可愛いと悟に称される顔を顰めた。

「それ事務的なやつやん」
「そうかな?」

「もう……ホントはよくっついてね。二人がじれじれするのむず痒いし。というか夏希くんの鉄の鎧が打ち破られたらゆっくんどうするん?」

「鉄の鎧……?」

「由紀がそんなやけん、諦めて他の子と付き合ったらどうするのぉって話よ」

「大丈夫だって!だって夏希は映画が命、……」

いや、それ以外に心を割く人じゃなかった。
映画命で恋愛に興味はないなんて、もう保証は出来ないのだった。

「どうしよう……」
「でしょう?」

「うん……」

奈那は満足そうに頷いたあと烏龍茶を飲み干して立ち上がった。

「曖昧な態度とってないでささっと気持ち伝えた方がいいよ。夏希くん、あんなに好き好きアピってたんやけん、ゆっくんなら大丈夫でしょ」

艶々とした唇が弧を描き、そして奈那はスマホで電話する。
優しい笑顔だが、妙に由紀の方を責めているスタイルを取っている言葉だった。

「あっ。悟遅いよぉ、あたしらもう食堂出るし。やけん今日の夜はバイトやってぇ……ーーーー」

そのやり取りが随分と遠くに聞こえて、由紀はぼんやりと今までの二人のやり取りを読み返した。

夏希が好き好きアピール?
そんな気配あっただろうか。