ピカレスクに心酔



練習終わりの玄関。一人で帰ろうとしていた彼女を引き留めて、アイスを食べに行こうと誘ったことがある。

思えば当時の珠々子も野良猫のような目をしていた。
警戒心丸出しで、こちらの意図を探るように上から下までじっくり観察した後、はっきりと問われたのだ。


『馬鹿にしてないよ? アイス嫌い?』

『そういうことじゃありません。別に私は一人で帰れますし、お気遣いなく』

『私が村田(むらた)さんと一緒にアイス食べたいんだよー。今日この後予定あるの?』

『ない、ですけど……』

『じゃあ決まりね! じゃんけんで私に勝ったら奢ってあげる!』

『いや、自分で払います』

『真面目~』


掴んだ保冷剤の温度で我に返る。
懐かしい記憶を辿っていたら自然と頬が緩んでいた。そのまま今の珠々子を見やれば、怪訝な表情で「何笑ってるんですか」と不審がられてしまう。


「はい、ちゃんと冷やしてね」

「ありがとうございます」


自分も近くの椅子に腰を下ろし、壁に貼ってあるプリントを意味もなく流し読みしていた時だった。


「朱南先輩。さっき何を考えてたんですか」