「……なんだ?」
私は、先輩の漆黒の外套の袖口を、両手で強く握りしめる。
「……そんなこと、ありません!」
「……っ」
私は背伸びをして、まっすぐに彼の赤い瞳を見つめ返した。
「もしそうだったとしても……少なくとも、私は違います!」
「っ……」
「私は、もっと知りたいと思っています! ヴァル先輩がどんな風に育って、どんな食べ物が好きで、どんな風に笑うのか……! 『神城の当主』じゃない、ヴァル先輩自身のことを、もっともっと知りたいです!」
夜風が二人をそっと吹き抜けていく。
私の必死な言葉が、誰もいない静かな庭園に小さく響き渡った。
言っちゃった。
私なんかが、偉そうにそんなことを。
急に恥ずかしくなって顔が熱くなり、握りしめていた袖口を離そうとした──その時。

