……それから、いろんな話をした。
正確には――私が一方的に質問を投げかけてただけだけど。
「あっ、そういえばずっと気になってたんですけど」
月明かりが照らす石畳を踏みしめながら、私は前を歩く彼の背中に問いかけた。
「ん?」
先輩は足を止めずに、首だけをこちらへ向ける。
夜風になびく黒髪の間から、神秘的な赤い瞳が私を映し出した。
「先輩はどうして私のことを『白石あかり』ってフルネームで呼ぶんですか?」
「……特に意味などないが」
関心がなさそうにそっぽを向くけれど、その歩幅がほんの少しだけ緩やかになる。
「ええ……フルネームで呼ばれるの、なんか固いといいますか……落ち着かないといいますか」
私が指先をくるくると動かしながら不満を口にすると、先輩はふっと足を止め私を見下ろしてきた。
「では何と呼べば満足するのだ」
至近距離で見つめられ、急に胸がドキンと跳ね上がる。
「ええ、えーっと……『あかり』、とか?」
上目遣いで恐る恐る提案してみると、ヴァル先輩は一瞬だけ目を見張り、それからふいっと顔を背けた。
月光のせいか、彼の白い耳たぶがかすかに赤く染まっている気がする。
「……フン。気が向いたら呼んでやろう」
「あ、ありがとうございます!」
そっけない態度の中に見えた素直じゃない優しさに、思わず笑みがこぼれる。
……と、安心したのも束の間。
先輩は不機嫌そうに眉をひそめ、腕を組み直した。

