静かな室内で、突如として小さく響いたノックの音。
思わず身を固くする。
だけど、音のした方は……ドアからではなかった。
なんと、二階にある私の部屋の窓から聞こえてきたのだ。
えっ……ここ二階だよ……!?
ま、まさか泥棒……!?
おそるおそる息を殺して近寄り、カーテンの隙間からそっと外を覗き込む。
月光を浴びて、テラスに優雅に佇んでいたのは──漆黒の外套を羽織った神城先輩だった。
「……遅い」
「神城先輩!? ここ、女子寮の二階ですよ!?」
あまりの衝撃に、慌てて窓を大きく開ける。
神城先輩は軽やかな身ごなしで、まるで舞い落ちる羽のようにフワリと室内へ滑り込んできた。
「静かにしろ、騒ぐな。寮長に見つかったら面倒だ」
「め、面倒って……そもそもどうやって二階まで登ってきたんですか!?」
「吸血鬼にとって、これくらいの高さを跳ぶなど造作もない」
至極当然といった様子で黒い外套を払う神城先輩。
「少し、外を散歩しないか?」
「えっ……散歩、ですか?」
夜の十時に、女子寮に忍び込んできて散歩のお誘い。
神城先輩にそっと手首を引かれるようにして、私は窓から軽やかに飛び降り、ひっそりと寮を抜け出した。

