ヴァル先輩はふっと表情を柔らかくすると、少しトーンを落として尋ねてきた。
「……学園に来てから、怖くはなかったか?」
「え……?」
「あやかしばかりの環境だ。人間を常食とするものはいないが……いつ喰われてもおかしくない異常な場所で……辛い思いをさせていないか」
彼の声には、私を心から案じる繊細な優しさが込められていた。
私は夜空を見上げ、学園で過ごしたこれまでの日々を静かに振り返った。
「最初は……本当に、すごく怖かったです。生徒会室に連れて行かれた時も、この学園にはあやかししかいないって聞かされた時も、生きた心地がしなくて……」
「……そうか」
「でも」
私は先輩に向き直り、まっすぐに彼の目を見つめた。
「ヴァル先輩が側にいてくれて、守ってくれて……。セシル先輩や侑季先輩、葵くんや蓮くんたちが、温かく迎え入れてくれたから。……だから私、今はこの学園が大好きです」
「あかり……」
「ここに来られて、ヴァル先輩に出会えて……本当によかったです」
自分の素直な気持ちを口にすると、ヴァル先輩は一瞬だけパチパチと目を見開いた。
そして──今まで見たこともないほど愛おしそうな、甘く優しい目をして私を見つめた。
「そうか。……お前がここで笑ってくれていて、よかった」

