キミがいたから。



───次の日


放課後の廊下を燈が一人で歩いていると、後ろから声がした。

「燈!」

振り返らない。聞こえなかったふりをして、そのまま歩く

「燈、待って!」

───足音が近づいてくる…そして

「燈!」

腕を掴まれる。

「……爽」

振り返ると、爽が少し息を切らしていた。

「最近、避けてるよね」

「……避けてない」

「避けてるよ」

いつもの柔らかな笑顔ではなかった。

「俺、何かした?」

「違う」

「じゃあ、どうして?」

私は俯いた…言えない。

――好きだよ、好きなんだもん。

あなたに好きな人がいるって聞いたから…

だから、これ以上好きにならないようにしている。

そんなこと、言えるわけがなかった。

「……本当に、何でもないから」

「燈」

「ごめん」

───私はこれ以上聞かれないように、その場から逃げるように歩き出した。

けれど。

「待って」

爽の声が背中を追いかけてくる。

「俺、燈に何かしたならちゃんと謝りたい」

──走ろうとしていた私の足が止まった。

「だから……一人で決めつけないでよ」


胸が苦しくなる。振り返れば、きっと全部言ってしまう。

好きだと。誰かのにならないでと。

あなたが好きだから、怖いのだと。

───でも今は、まだ言えない。



「……ごめん」

それだけ言って、私は歩き出した。走ると爽への思いもどこかに消えていきそうで。今はゆらゆら揺れているから…





そして、爽はその背中を見つめる。

──そっと小さく呟いた。

「……何でだよ」

理由が分からない。

ただ一つだけ分かることがあった。燈が離れていくのが、嫌だった…



――このとき二人はまだ知らなかった。

自分たちをすれ違わせている“噂”が、そもそも大きな勘違いから生まれたものだったことを。

そして、そのすれ違いが、二人の気持ちを初めて真正面から向き合わせることになることを。

秋の風が、二人の間を静かに吹き抜けていた──。