キミがいたから。



放課後、美桜と別れた燈は、一人で昇降口へ向かっていた。

靴を履き替えていると、スマートフォンが震える。



『今日、一緒に帰れる?』

爽からだった。私は画面を見つめる。

たった一行、それだけなのに、頬が熱くなる。

『うん』

───送信するとすぐに返信が来た。


『じゃあ待ってる』

私はスマートフォンを胸元に抱えた。


――好き。

何度思っても、胸が苦しくなる


その日の帰り道。

2人は並んで歩いていた。

「もうすぐ冬だね」

「うん」

「高校生活も、あっという間だな」

「まだ一年生なのに?」

「でも、入学したの昨日みたいじゃん」

燈は笑う。

「確かに」

少しの沈黙…その沈黙が、今日は妙に長く感じた。

言わなきゃ、今なら…

何となく、そう思った。

「……爽」

「ん?」

「私ね」

「うん」

───足が止まりそうになる。胸が苦しい。

──喉が乾く。

「爽に……」


そこまで言ったところで、声が小さくなる。

「ん?」

爽が振り返る。

隣を歩いていたはずなのに気付けば私は爽の後ろを歩いていて。


「何?」

燈は唇を開く。

……言わなきゃ、ずっと伝えたかった。

何度も助けてもらった、何度も笑わせてもらった。

自分を変えるきっかけをくれた。

だから、

「……ありがとう」

結局、出てきたのはその言葉だった。

爽は少し驚いたあと、笑った。

「急にどうしたの?」

「……なんとなく」

「そっか」

爽は前を向く。

「俺も、燈に会えてよかったよ」

その言葉に、燈の胸が大きく鳴った。

「……え?」

「最初は、道に迷ってる子がいるなって思っただけだったけど」

「……うん」

「今は、燈と話すのが普通になってる」

嬉しい、嬉しいのに。

どうしてか、涙が出そうになった。

――もっと近くにいたい。

友達じゃなくて…もっと特別な存在になりたい。


でも…もし、この気持ちを伝えて。

今の関係が壊れたら?

もし、爽が困った顔をしたら?

もし、今までのように笑ってくれなくなったら?



───怖かった。

だから、私はまた言えなかった。