気付けば、秋は過ぎ冬へ向かおうとしていた
朝の空気は冷たくなり、登校する生徒たちの吐く息が、ほんの少しだけ白く見える。
「おはよう、燈」
「おはよう」
いつもの朝、いつもの挨拶。
なのに、私にとっては、その一言だけで今日も頑張れるような気がした。“好きな人”の存在ってこんなにも暖かいんだな…
「今日、寒くない?」
「寒いね」
「燈、手冷たそう」
「え?」
「ほら」
爽が自分の手を見せる。
「俺も冷たい」
「……ほんとだ」
「だから一緒」
「何それ」
燈は笑った。
――笑えるようになった。
それが、私自身にとって一番大きな変化だった。
以前なら、教室に入るだけで周囲の視線を気にしていた。
誰かの笑い声が聞こえれば、自分のことだと思った。
何か言われても、言い返すことなんてできなかった
けれど今は違う
「おはよう!」
「燈、一緒に行こ!」
美桜が手を振る。
「うん!」
燈は笑顔で返す。
そんな自分を見るたび、不思議な気持ちになる。
高校に入ったとき、燈は“変わりたい”と願った。
でも、変わる方法なんて分からなかった。
ただ、爽に出会った、美桜と友達になった。
たくさん泣いて、たくさん悩んで…少しずつ、自分の気持ちを言葉にしていった。
そして今。
私は以前よりずっと、自分のことを嫌いではなくなっていた。
「燈」
「ん?」
爽が前を歩きながら振り返る。
「最近、よく笑うようになったよね」
「……そうかな」
「うん」
私は少し照れながら笑った。
「……爽のおかげかも」
───こんなにも前に進む勇気を与えてくれたから。
「俺?」
「うん」
その瞬間、胸の奥が、また少しだけ熱くなる。
この人が好き。そう思うことが、もう怖くなくなっていた。
でも――伝えることだけは、まだ怖かった。



