数日後。
あんなにギクシャクして爽の隣が不安だった私と爽の距離は、少しずつ元に戻っていった。
昼休みには一緒に話す。
放課後には時々、一緒に帰る。
けれど、燈の中にはまだ引っかかっていることがあった
――私は、また誰かの言葉に振り回されてしまった
そのことだった。
ある日の放課後。
私は廊下で、莉奈たちの声を聞いた。
「爽って、最近また野村さんと一緒にいるよね」
「ほんと、よくやるよね」
以前なら、聞こえないふりをしていた。
怖くなって、その場から離れていた。
でも私は立ち止まった。なにか言わなきゃ、なにか伝えなきゃ…
胸は震えている、手も冷たい。
───それでも、自分なりの言葉で絡まった糸を解きたかった
「……私」
ゆっくり振り返る。
「爽と一緒にいること、悪いことだと思ってないから」
ヒソヒソと話していた女子たちが黙る。
「私は爽に助けてもらった。だから一緒にいたいって思ってる」
声は震えていた。
それでも、言えた。
「誰かに何を言われても、私の気持ちは私が決める」
言い終えると、私はその場を離れた。
足が震えている。自分の気持ちを伝えるのは正直怖かった。だけど、爽が私の背中を押してくれた…。あの眩しい笑顔が、あの優しい音色が…私にひとりで進む勇気を与えてくれた
───逃げなかった。廊下の角を曲がったところで、美桜が待っていた。
「燈」
「……美桜」
「今の、ちゃんと言えたね」
燈は少し笑う。
「うん。怖かったけど」
「すごいよ」
そのとき。
「燈」
また私の名前を呼ぶ声がした。
爽だった。
「……聞いてた?」
「うん」
私は思わず恥ずかしくなって俯く。
だけど爽は優しく笑い、大きな男の人の手をポンと私の頭に載せてくれて
「かっこよかった」
「……そんなことないよ」
「あるよ」
そして、優しく続けた。
「俺が助けるだけじゃなくて、燈が自分で前に進んでる」
その言葉に、私胸がいっぱいになった。
「……私、一人じゃ何もできないと思ってた」
「うん」
「でも、美桜がいてくれて、爽がいてくれて……」
燈は二人を見つめる。
「だから、私も誰かを助けられる人になりたい」
爽は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一緒に頑張ろう」
「うん」
夕暮れの光が、二人の足元を照らしていた。
燈は思う。爽に助けてもらったから、ここまで来られた。
でも、これからはただ助けてもらうだけじゃない。
自分の足で歩いていきたい。
誰かの言葉ではなく、自分の気持ちを信じて。
そしていつか――。
この気持ちを、ちゃんと言葉にできるように。
燈は夕焼けの空を見上げた。
その横で爽が笑っている。
その笑顔を見て、燈も笑った。
――もう、暗闇には戻らない。
そう心の中で、小さく誓った。



