キミがいたから。



「──昨日、ごめん」

私が先に謝る。もうこんな風にギクシャクするのは嫌だった…

「急に避けたりして……」

「うん」

爽は少しだけ笑った。

「正直、何で避けられてるのか分かんなかった」

「……噂を聞いたの」

「噂?」

「爽に……好きな人がいるって」

爽は目を丸くして私の目を見る。

───そのひとつひとつの動作で私の心臓は高鳴ってしまう。

「俺?」

「うん」

「それで避けてたの?」

燈は頷く。

「……ごめん」

「そっか」

爽は少し考えたあと、苦笑した。

「それ、俺も知らなかった」

「え?」

「俺に好きな人がいるって話」

私は思わず顔を上げた。

「じゃあ……」

「たぶん、誰かの勘違いだと思う」

私は胸を撫で下ろしたけれど、爽太郎は続ける。

「でも、それだけじゃないよね?」

「……」

「燈が俺を避けてた理由」

───図星だった。もう気付かれてるのかもしれない、もう隠すのは無理なのかもしれない。それでも、勇気が足りないから出かかってる言葉を飲み込むために私は唇を噛む。

本当の理由。それを言うには、まだ…足りなかった。


「……怖かったの」

「何が?」

「爽に好きな人がいたら……私が近くにいるの、嫌かなって」

爽は黙った。

「私、爽のこと……大切だから」

そこまで言って、私は言葉を止めた。

“好き”という言葉だけは、どうしても言えない。

「だから、邪魔したくなかった」

爽は静かに言った。

「燈」

「……うん」

「俺は、燈に勝手に離れてほしくない」

その言葉に、胸が熱くなった

「何かあったなら、ちゃんと俺に聞いて」

「……うん」

「一人で決めつけないで」


昨日と同じ言葉。でも今日は、その意味が少し違って聞こえた。