月影に咲く、一輪の華


さっきまでの騒ぎが嘘みたいに静まり返っていた。

私はもう、いつもの星羅に戻っている。

星羅「星夜、ほんとに大丈夫?」

星夜「ああ」

星羅「よかったぁ……」

安心したように笑って、星夜の腕にぎゅっと抱きつく。

その姿だけを見れば、さっきの出来事が嘘だったみたいだ。

けれど――。

月影のみんなは、誰一人として笑っていなかった。

來夢「…………」

來夢は、呆然としたまま私を見ている。

ついさっきまで一緒に笑っていた女の子。

誰にでも笑顔で話しかけて、初対面の相手にも平気で「友達になろう」と言える。

そんな星羅が――。

星夜を守るために前へ出た瞬間、まるで別人になった。

來夢「……あれが、星羅ちゃん?」

思わず漏れた言葉。

黒羽「……俺も初めて見た」

黒羽は腕を組んだまま、私を見つめている。

黒羽「普段のあいつからは、想像もつかねぇな」

朔夜「……あれだけの殺気を出せる人間が、普段はあんなに無邪気に笑ってるのか」

朔夜も珍しく驚きを隠していない。

豹牙「……マジでヤベぇな」

豹牙は私が男を投げ飛ばした瞬間を思い返すように、口元を上げる。

豹牙「強ぇとは聞いてたけど……あそこまでとは思わなかった」

夜凪「…………」

夜凪は何も言わない。

ただ、さっきまでとは明らかに違う目で私を見ていた。

琉生「…………」

琉生もまだ呆然としている。

琉生「星羅さん……怖かった」

ぽつりと呟いたあと、少しだけ目を伏せる。

でも、その声には怯えだけじゃない。

驚きと――尊敬が混じっていた。

琉生「……でも、すごく格好よかったです」

その言葉に、私は振り返る。

星羅「え?」

琉生「星夜さんを守るために、あんなに迷わず前に出られるなんて……」

星羅「……」

私は少し照れくさくなって笑う。

星羅「だって星夜は大切な弟だもん」

それだけ。

本当に、それだけだった。

黒羽「…………」

黒羽はその言葉を聞いて、少しだけ目を細める。

來夢「……星羅ちゃんにとって、星夜って本当に特別なんだな」

星羅「うん!」

迷いなく答える。

星羅「世界で一番大切!」

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「……もういい」

星羅「えー?まだ言ってないよ?」

星夜「十分聞いた」

そう言いながら、星夜は少しだけ照れたように顔を逸らした。

その姿を見て、黒羽が小さく笑う。

黒羽「……なるほどな」

誰も口にはしなかった。

けれど、全員が同じことを思っていた。

――星羅は、星夜のためなら何でもする。

そして星夜を傷つけようとする者にとって、星羅ほど恐ろしい存在はいない。