男「……舐めんなよ!」
勢いよく拳を振り上げる。
星夜「姉ちゃん!」
拳が目の前まで迫った瞬間――。
私は身体を横へ滑らせた。
拳が空を切る。
星羅「遅いよ」
男「なっ……!」
そのまま相手の腕を掴み、身体をひねる。
男「ぐっ……!」
バランスを崩した男の身体が大きく傾く。
私はそのまま地面へ叩きつける――。
……寸前で、手を止めた。
星羅「…………」
男「……っ」
地面に倒れ込んだ男を見下ろす。
殺してやる。
さっき、本気でそう思った。
星夜に手を出そうとした。
それだけで、頭の中が真っ白になった。
だけど。
星夜「……姉ちゃん」
後ろから聞こえた声で、私は我に返った。
ゆっくりと手を離す。
男は地面に尻もちをついたまま、信じられないものを見るように私を見上げている。
星羅「……次はないから」
低く告げる。
男「…………」
星羅「星夜に近づかないで」
それだけ言って、私は星夜のところへ戻った。
星夜「……」
星羅「星夜、大丈夫?」
星夜「ああ」
星羅「よかった」
さっきまでの殺気が嘘みたいに消える。
私はいつものように、星夜の腕にぎゅっと抱きついた。
星羅「怖かった?」
星夜「……誰が」
星羅「だって喧嘩だもん」
星夜「……姉ちゃんの方が怖ぇよ」
星羅「え?」
星夜「…………何でもねぇ」
私は首を傾げる。
その一部始終を見ていた黒羽たちは、誰も言葉を発せずにいた。
來夢「……星夜」
星夜「何」
來夢「お前、毎日あれ見てんの?」
星夜「……昔から」
豹牙「……なるほどな」
豹牙が小さく笑う。
豹牙「そりゃ、星夜より強ぇわ」
朔夜「……納得した」
夜凪「…………」
琉生だけは、まだ目を丸くしたまま私を見ていた。
琉生「星羅さん……」
星羅「ん?」
琉生「……さっきと今で、別人みたいでした」
星羅「そう?」
琉生「はい……」
星羅「でも、星夜を傷つけようとしたから」
私は当たり前のように答える。
星羅「星夜は私が守るから」
その言葉に、黒羽が静かに目を細めた。
そして――。
敵の男が、震える手で立ち上がった。
男「……覚えてろ」
そう吐き捨てて、仲間たちと一緒にその場を去っていく。
誰も追わなかった。
ただ、黒羽だけがその背中を見つめていた。
黒羽「……朱雀が動いたか」
その呟きに、私は振り返る。
星羅「朱雀?」
知らない名前。
だけど、その名前を口にした瞬間――。
月影のみんなの顔から、笑顔が消えた。



