月影に咲く、一輪の華


男「なら、確かめさせてもらうわ」

男が拳を握り、こちらへ一歩踏み出した。

その瞬間だった。

星羅「――寄るな」

自分でも驚くほど低い声が出た。

次の瞬間には、私は星夜の前に立っていた。

まるで、星夜を隠すように。

星夜「……姉ちゃん?」

私は答えない。

ただ目の前の男を睨みつける。

さっきまで笑っていた顔から、完全に表情が消えていた。

男「……なんだよ」

星羅「星夜に」

一歩、前へ出る。

男「……」

星羅「傷ひとつでもつけてみろ」

空気が変わった。

さっきまで騒がしかった周囲が、嘘みたいに静まり返る。

私の周りにいる黒羽たちも、何も言わない。

ただ、目の前の私を見ている。

星羅「――私が殺してやる」

男「…………」

その声には、冗談なんて一切なかった。

本気でそうする。

そう思わせるほどの殺気が、私から溢れ出していた。

男が思わず一歩後ずさる。

「……っ」

星羅「どうしたの?」

私はゆっくり首を傾げる。

星羅「さっきまで威勢よかったじゃん」

男「お前……」

星羅「私の弟に手を出すなら」

拳を握る。

星羅「誰だろうと許さない」

背後から、星夜の声が聞こえた。

星夜「……姉ちゃん」

星羅「大丈夫」

振り返らない。

星羅「私が守るから」

その言葉だけは、迷いなく言えた。

幼い頃に鎖に繋がれて、何もできなかった。

自分が弱かったせいで捕まった。

そのせいで、星夜を泣かせた。

もう二度とあんな顔をさせない。

絶対に。

星羅「……今度は、私が守る」

男「……女一人で何ができる」

星羅「やってみる?」

その瞬間、私は初めて笑った。

でも――。

いつもの明るい笑顔じゃない。

ぞっとするほど冷たい笑みだった。

男「…………」

黒羽「……おい」

低い声が響く。

黒羽が、ゆっくり口元を上げた。

黒羽「そいつに手ぇ出すなら――」

豹牙「……マジで終わるぞ」

星羅は振り返らない。

ただ、目の前の敵だけを見据えていた。

この瞬間。

月影の全員が初めて知った。

いつも笑って、誰にでも懐いて、ふざけている少女が――。

星夜のためなら、誰よりも恐ろしい存在になることを。