月影に咲く、一輪の華

月影の倉庫へ戻ると、星羅は買ったばかりの水着の袋を抱えたまま、真っ先にスマホを取り出した。

星夜「……もう電話するの?」

星羅「うん! 予定決めたいもん」

星羅は迷いなく遥愛の名前をタップする。

プルルル……。

星羅「もしもし、はるちゃん?」

遥愛『星羅さん?』

その声が聞こえた瞬間、星羅の顔がぱっと明るくなる。

星羅「うん! 今日ね、星夜と買い物行ってきたの」

遥愛『そうなんですね』

星羅「それでね!」

少し間を置いて、嬉しそうに告げる。

星羅「はるちゃん、海行こう!」

遥愛『……海?』

星羅「うん! 夏休みだし、一緒に行きたい!」

遥愛『いいですよ』

星羅「ほんと!?」

遥愛『はい。俺も行きたいです』

星羅「やったぁ!」

思わず声が大きくなる。

その瞬間、少し離れていた月影のメンバーが一斉に振り返った。

豹牙「……海?」

來夢「今、海って言った?」

朔夜「まさか……」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

星羅はそんな視線など気にせず、電話を続ける。

星羅「海の家でいっぱい食べようよ! 焼きそばとか、かき氷とか!」

遥愛『楽しそうですね』

星羅「でしょ? それでね――」

豹牙「おい」

豹牙が小声でみんなを見る。

豹牙「……まさか水着着るのか?」

來夢「海なんだから、そりゃ着るでしょ」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

全員の視線が、星羅の手元へ落ちる。

――そこには、今日買ってきたばかりの水着の袋。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

豹牙「……マジかよ」

星羅「じゃあ日にちは――」

遥愛『○日なら大丈夫です』

星羅「じゃあ○日ね! 約束!」

遥愛『はい』

星羅「楽しみだね、はるちゃん♡」

遥愛『……はい』

星羅「じゃあまた連絡するね!」

遥愛『分かりました』

通話が切れる。

星羅「ふふっ……」

嬉しそうにスマホを胸へ抱える。

その瞬間――。

豹牙「…………海」

來夢「…………水着」

朔夜「…………遥愛と」

黒羽「…………二人で」

夜凪「…………」

星羅「?」

豹牙「星羅」

星羅「ん?」

豹牙「……水着、買ったのか?」

星羅「うん!」

星羅は嬉しそうに袋を掲げる。

星羅「今日買った!」

豹牙「…………」

全員、複雑な顔になる。

星羅「どうしたの?」

來夢「……いや」

朔夜「……何でもない」

星羅「変なの」

そして星羅は袋を持ったまま、星夜のところへ向かう。

星羅「星夜」

星夜「ん?」

星羅「今日は一緒に寝よう?」

星夜「……今日?」

星羅「うん!」

星夜「いいけど」

星羅「やった!」

夏休みに入ってから、月影のメンバーはみんな倉庫で寝泊まりしている。

だから今夜も、いつものようにここで眠る。

星羅は嬉しそうに星夜の隣へ座った。

星羅「今日、楽しかったね」

星夜「うん」

星羅「明日は何しようかなぁ」

星夜「……また遥愛の予定?」

星羅「ふふっ」

星夜「図星かよ」

星羅「あ、でも今日は星夜とのデートの日だったからね」

星夜「……それならいい」

二人が笑い合う。

その少し離れた場所で――。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

誰もまだ、海と水着の衝撃から立ち直れていなかった。

豹牙「……夏休み、始まったばっかなのに」

來夢「色々起きすぎだよね」

朔夜「……まだまだ長いぞ」

夜凪「…………」

そして星羅は何も知らず、星夜の横にひっついて寝転がる。

星羅「おやすみ、星夜」

星夜「……おやすみ、姉ちゃん」

月影の倉庫に、静かな夜が訪れようとしていた。