月影に咲く、一輪の華


誰も口を開かない。

さっきまで星羅がいた場所だけが、妙に静かだった。

豹牙「……なぁ」

誰も返事をしない。

豹牙「お前らさ」

瑛翔「ん?」

豹牙は腕を組み、全員を順番に見回した。

豹牙「星羅のこと、どう思ってんの?」

一瞬。

空気が変わった。

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

瑛翔「……いきなりだね」

豹牙「いいだろ、別に」

紅蓮「……お前はどうなんだよ」

豹牙「俺?」

少しだけ口元を上げる。

豹牙「俺はもう分かってる」

來夢「…………」

豹牙「星羅が好きだ」

あまりにも真っ直ぐな言葉に、全員が黙った。

星夜「…………」

豹牙「最初は女だからって甘く見てた」

豹牙は少し笑う。

豹牙「でも、あいつの喧嘩見てから全部変わった」

拳を握る。

豹牙「強ぇくせに、誰かを守る時は自分が傷つくことなんか考えねぇ」

そして、少しだけ目を逸らした。

豹牙「……そういうとこ、好きだ」

紅蓮「へぇ」

瑛翔「豹牙って、意外と素直なんだね」

豹牙「うるせぇ」

紅蓮が笑った。

紅蓮「俺は――」

少し考えてから、星羅が消えた奥を見る。

紅蓮「面白ぇ女だと思ってる」

星夜「それだけ?」

紅蓮「……最初はな」

紅蓮は少し黙る。

紅蓮「けど、あいつが泣いてるの見た時……放っとけねぇと思った」

星夜「…………」

紅蓮「だから、もっと知りたい」

瑛翔「俺は……」

瑛翔は苦笑する。

瑛翔「星羅ちゃんって、一緒にいると楽しいんだよね。もっと話したいし、もっと笑わせたい。……気づいたら、会いたいって思うようになってた」

刹那「…………」

瑛翔「刹那は?」

刹那「俺?」

しばらく黙ったあと。

刹那「……最初は面倒な女だと思っていた」

星夜「それ、星羅本人に言ったら怒るよ」

刹那「分かってる」

少しだけ口元を緩める。

刹那「だが、今は……違う。星羅といると、何故か気が抜ける」

そして頬をつつかれたことを思い出す。

刹那「……あいつが笑ってると、悪くないと思う」

來夢「それ、かなり好きじゃない?」

刹那「…………知らん」

來夢「ふふ」

朔夜「俺は……」

朔夜が静かに口を開く。

朔夜「星羅は強いと思っていた。だが、本当は強いだけじゃなかった。怖くても笑って、自分が傷ついても誰かを守ろうとする」

拳を軽く握る。

朔夜「……あの姿を知ってしまったら、放っておけない」

そして、少しだけ視線を落とす。

朔夜「もっと近くで見ていたいと思う」

來夢「…………」

黒羽「…………」

次に、全員の視線が來夢へ向く。

來夢「俺?」

少し困ったように笑う。

來夢「……星羅ちゃんといると、自然に笑えるんだ。だから――これからも、星羅ちゃんを笑わせたい」

その言葉に、豹牙が小さく笑った。

豹牙「お前らしいな」

そして――。

黒羽へ視線が集まる。

黒羽「…………」

少し考える。

黒羽「俺は……まだ、うまく言葉にできない。ただ」

黒羽は奥の部屋を見る。

黒羽「星羅が傷ついた時、思っていた以上に腹が立った」

「いなくなるかもしれないと思った時は――」

一瞬だけ言葉を止める。

黒羽「……怖かった」

その言葉に、全員が静かになる。

黒羽「だから、これからも傍にいたい」

最後に――。

夜凪。

豹牙「お前は?」

夜凪「…………」

夜凪は黙っていた。

しばらくして、低い声で答える。

夜凪「……大事だ」

豹牙「それだけ?」

夜凪「それ以上、今は言えない」

豹牙「……ふーん」

けれど、その横顔を見れば十分だった。

そして最後に――。

全員の視線が星夜へ向く。

星夜「俺?」

豹牙「ああ」

星夜「……俺は」

少し笑って。

星夜「姉ちゃんが大好き」

全員「…………」

星夜「世界で一番大事」

迷いのない言葉。

星夜「だから、姉ちゃんを泣かせる奴は絶対許さない」

豹牙「……だよな」

星夜「でも――」

星夜は男たちを見る。

星夜「みんなが姉ちゃんを大切にしてくれるなら、俺は嬉しい」

そして――。

奥から、星羅の声が聞こえた。

星羅「みんなー! 部屋すごく綺麗だよー!」

全員が一斉に振り返る。

星羅「……何してるの?」

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

誰も、今話していたことを言えるはずがない。

豹牙「……何でもねぇよ」

星羅「?」

星羅は不思議そうに首を傾げる。

その顔を見て――。

男たちは、それぞれ違う想いを胸に抱えながら、静かに笑った。