月影に咲く、一輪の華

星羅「ねぇ、瑛翔」

瑛翔「ん?」

星羅は瑛翔の隣にちょこんと座る。

星羅「前に会った時も思ったけど、瑛翔って本当に話しやすいね」

瑛翔「そう?」

星羅「うん。なんか一緒にいると楽しい」

瑛翔「…………」

その言葉に、瑛翔の笑顔が一瞬だけ止まった。

星羅「どうしたの?」

瑛翔「いや……」

瑛翔はいつものように笑う。

瑛翔「星羅ちゃんってさ」

星羅「ん?」

瑛翔「距離近いよね」

星羅「そう?」

瑛翔「うん。かなり」

星羅「だって、仲良くなりたいんだもん」

瑛翔「…………」

あまりにも無邪気に言われて、何も返せなくなる。

瑛翔「……それ、誰にでも言ってる?」

星羅「え?」

瑛翔「いや、何でもない」

星羅「変なの」

星羅が笑う。

瑛翔もつられて笑った。

けれど胸の奥では――。

もっと自分と話してほしい。

そんな気持ちが、少しずつ膨らんでいた。

その頃。

朧はキッチンで二枚目のパンケーキを焼いていた。

星羅「朧ー!」

朧「……何?」

星羅「まだ?」

朧「今焼いてる」

星羅「見ていい?」

朧「……危ないからこっち来ないで」

星羅「はーい」

素直に少し離れる。

けれど、すぐにまた近づく。

星羅「…………」

朧「…………」

星羅「いい匂い」

朧「……もう少し」

星羅「待つ!」

朧「ふっ……」

星羅「……今笑った?」

朧「笑ってない」

星羅「笑ったよ!」

朧「…………」

星羅「もう一回笑って」

朧「無理」

星羅「なんで?」

朧「……恥ずかしいから」

星羅「ふふっ」

そのやり取りを少し離れた場所から見ていた夜凪。

夜凪「…………」

豹牙「……おい」

夜凪「何だ」

豹牙「お前、さっきから朧ばっか見てねぇ?」

夜凪「…………」

夜凪は視線を逸らす。

夜凪「別に」

豹牙「ふーん」

豹牙はニヤッと笑う。

豹牙「俺は分かるけどな」

夜凪「何が」

豹牙「気になってんだろ」

夜凪「…………」

豹牙「星羅が朧に懐いてるの」

夜凪「…………」

否定しない。

豹牙「図星じゃん」

夜凪「……うるさい」

その二人の会話を、星夜が聞いていた。

星夜「……お前ら」

豹牙「ん?」

星夜「姉ちゃんのこと好きなの?」

豹牙「…………」

夜凪「…………」

星夜「何で黙るんだよ」

豹牙「……お前、直球すぎんだろ」

星夜「だって分かりやすいから」

豹牙「…………」

星夜「姉ちゃん、鈍いから気づいてないけど」

夜凪「…………」

星夜「俺は気づいてる」

豹牙「……そうかよ」

星夜「でも――」

星夜は笑う。

星夜「姉ちゃんが楽しそうなら、俺はそれでいい」

豹牙「…………」

星夜「ただし」

豹牙「?」

星夜「姉ちゃん泣かせたら、俺が許さないから」

豹牙「…………」

その言葉に、豹牙は少しだけ目を細めた。

豹牙「……分かってる」

夜凪「……同じだ」

星夜「……ならいい」

三人の視線の先では――。

星羅が朧の焼いたパンケーキを受け取って、嬉しそうに笑っていた。

星羅「いただきます!」

ぱくっ。

星羅「……おいしい!」

朧「……よかった」

星羅「やっぱり朧のパンケーキ大好き!」

朧「…………」

今度は、朧の耳がほんの少し赤くなった。

瑛翔「……あーあ」

刹那「…………」

紅蓮「……完全に懐かれてんな」

瑛翔「朧、もう逃げられないね」

朧「…………」

星羅「?」

朧「……もう一枚いる?」

星羅「いる!」

即答。

朧「……分かった」

紅蓮「ははっ」

そして月影の男たちは、またしても思う。

――自分たちが知らない時間の中で、星羅と朱雀はこんな関係になっていたのか。

焦る気持ちは、どんどん大きくなっていた。