月影に咲く、一輪の華

朧が奥へ行ってから、少しして。

星羅「……まだかな」

ソファに座ったまま、私はちらちらと奥を覗く。

瑛翔「そんなに楽しみ?」

星羅「うん。朧が何作ってくれるのかなって」

瑛翔「……へぇ」

瑛翔は少しだけ頬を膨らませる。

瑛翔「俺が作るって言った時より嬉しそうじゃない?」

星羅「そう?」

瑛翔「そう」

星羅「じゃあ瑛翔も作ってよ」

瑛翔「……え?」

星羅「瑛翔の作ったものも食べてみたい」

瑛翔「…………」

一瞬、言葉が出なかった。

星羅「どうしたの?」

瑛翔「いや……」

瑛翔は顔を逸らして笑う。

瑛翔「それ、俺には結構効くんだけど」

星羅「何が?」

瑛翔「……もういいや」

そこへ、朧が戻ってきた。

手には小さな皿。

朧「……できた」

星羅「わぁ……!」

皿の上には、簡単に盛り付けられたパンケーキ。

星羅「美味しそう!」

朧「甘いのがいいって言ったから」

星羅「ありがとう!」

嬉しそうに受け取る。

一口食べる。

星羅「……!」

朧「……どうだ」

星羅「美味しい!」

満面の笑み。

星羅「朧、すごい!」

朧「…………」

朧の目がわずかに揺れる。

星羅「もう一口食べていい?」

朧「ああ」

星羅「やった」

また嬉しそうに食べる。

その様子を見ていた瑛翔が、少しだけ唇を尖らせた。

瑛翔「……朧」

朧「何だ」

瑛翔「俺も作ればよかった」

朧「知らねぇよ」

紅蓮「ははっ」

紅蓮が笑う。

刹那は黙っているものの、星羅が美味しそうに食べている姿をじっと見ていた。

星羅「刹那も食べる?」

刹那「……俺はいい」

星羅「そう?」

刹那「ああ」

星羅「じゃあ、瑛翔は?」

瑛翔「食べる!」

星羅「ふふっ」

瑛翔がすぐに寄ってくる。

瑛翔「一口ちょうだい」

星羅「え?」

瑛翔「……冗談」

そう言いながらも、目は完全にパンケーキを見ている。

星羅「ふふっ。じゃあ、自分で食べて」

瑛翔「はいはい」

その場に少しずつ笑い声が戻っていく。

敵同士だったはずなのに。

いつの間にか、まるで昔から一緒にいたみたいな空気になっていた。

けれど――。

その時間を壊すように。

外から、バイクのエンジン音が響いた。

紅蓮「……ん?」

一台。

二台。

三台――。

紅蓮の表情から、笑みが消える。

紅蓮「……誰だ?」

朧も立ち上がる。

刹那「……この時間に来る奴なんて、限られてる」

瑛翔「まさか……」

星羅「……?」

紅蓮が窓の外を見る。

そして、低く呟いた。

紅蓮「……月影か」