月影に咲く、一輪の華

紅蓮「……さて」

紅蓮が壁から身体を起こす。

星羅「?」

紅蓮「そろそろ飯にするか」

瑛翔「賛成」

星羅「え、朱雀ってここでご飯食べるの?」

瑛翔「まあな。腹減った?」

星羅「……ちょっと」

瑛翔「じゃあ――」

紅蓮「お前は座ってろ」

瑛翔「俺が作るって言おうとしたんですけど」

紅蓮「お前が作ると食えねぇだろ」

瑛翔「ひどっ!」

星羅「ふふっ」

また笑う。

その声に、朧がちらりと星羅を見る。

そして何気なく立ち上がった。

星羅「朧?」

朧「……何か食いたいものあるか」

星羅「え?」

朧「腹減ってるんだろ」

星羅「うん……」

少し考えてから。

星羅「じゃあ、甘いものがいい」

朧「……分かった」

そう言って、朧は奥へ向かう。

瑛翔「え、朧が作るの?」

紅蓮「珍しいな」

朧「簡単なもんだ」

星羅「楽しみ」

朧「…………」

その一言だけで、朧の足がほんの少し止まった。

――楽しみ。

たったそれだけなのに。

自分が作ったものを、この女が食べる。

それが妙に嬉しい。

そんな感情を持ったことがなくて、朧自身が戸惑っていた。

一方、紅蓮はその様子を見ていた。

紅蓮「……お前ら、分かりやすくなってきたな」

瑛翔「総長も人のこと言えないでしょ」

紅蓮「俺は別に」

瑛翔「はいはい」

紅蓮「…………」

否定したものの。

紅蓮の視線も、結局は星羅へ向いていた。

そして星羅は何も知らず、ソファに座りながら朧の戻りを待っている。

敵の拠点で。

敵であるはずの男たちに囲まれて。

それなのに――。

星羅「……なんか、不思議」

瑛翔「何が?」

星羅「昨日まで敵だったのに、今こうして一緒にいるの」

瑛翔「……嫌?」

星羅「ううん」

星羅は笑った。

星羅「嫌じゃないよ」

その瞬間。

瑛翔の胸が、また大きく鳴った。

そして紅蓮も、刹那も、朧も。

それぞれが違う形で――。

この時間を、もう少し続けたいと思ってしまっていた。