桜が咲いたら、必ず君に会いにいく

 入学式が始まり、担任が新入生一人一人の名前を読み上げていく。

黒崎桜雅(くろさきおうが)
「おい、黒崎。お前、呼ばれてるぞ」
「おっす!」

 ガタンと音が鳴って、椅子が後ろに弾け飛ぶ。

 一瞬、短い静寂が落ちた。

「バカすぎる……」
 
 どうやら生徒も教員もみな、あふれ出すオレのカリスマオーラに圧倒されているらしい。

 体育館の後方、保護者席を見ると、うつむくおふくろの姿が見えた。

 まるで死んだマグロのような目をしている。

 せっかくの息子の晴れ舞台ぐらい、素直に喜べばいいものを。
  
「やっぱ、お前、おわってるわ」
「普通だろ」

 こいつは、木下(きのした)
 特段、仲が良いというわけではないが、一応、中学からの付き合いだ。

 しかし、オレは知っている。
 このインテリ眼鏡の下に隠れた本性を。

「返事ってのは、腹の底からするもんだ。幼稚園児でも知ってるぞ」
「そこじゃねぇ……お前の腹は、背中にあるのか」

 と、まぁ、ご覧の通り、強力な毒を持っている。
 
「続きまして、新入生の皆さんへ、在校生からお祝いの言葉をいただこうと思います」

 教頭の声が、マイクを通して告げた。

「代表は2年、生徒会長の美澄紗雪(みすみさゆき)さん」
「はい」

 名前を呼ばれた生徒が、壇上に上がってくる。

 そして、次の瞬間、周囲の音が消え、全世界の時が止まった。

「新入生の皆さん、こんにちは」

 壇上に立った少女が、微笑みかける。

 マイク越しの声は、まるで聖水のように清く澄んでいた。

 今朝の……天使様じゃないかぁ!!

 心臓の音が駆け足になる。

 夢でも見ているんじゃないかと思った。

 もしここが天国だと言われても、オレは喜んで召されよう。

「まずはご入学、おめでとうございます。私達、2、3年生も、皆さんが入学してくるこの日を楽しみにしていました」
 
 体育館の窓から差しこむ光を受けて、ストレートの黒髪が艶やかに光る。

 一点の曇りも淀みもない瞳は、知的さと優しさを兼ね備えていた。

「新しい環境に、不安を抱いている人も多いかと思います。悩んだ時は、一人で立ち止まらず、私達や先生方を頼ってください。一緒に素敵な思い出を作っていきましょう」

 きっと誰もが、彼女の美しさに魅入り、(とりこ)になっていた。