桜が咲いたら、必ず君に会いにいく

 全神経を指先に集中させ、ひとつひとつビーズをゴム糸に通していく。

「あら、素敵じゃない! ハルは色を見る目があるわねぇ。さすがお兄ちゃんの子だわ〜」

 さりげなく肩に置かれた手。

 耳元で聞こえたのは、ぬめっとした女狐(めぎつね)のささやきだった。
 
 断じて言っておくけれと、僕はオネエの娘にも息子にもなった覚えはない。

「よ、呼んでないから……! ていうか、ちゃんと仕事してよっ!」
「大丈夫よ、向こうは他のスタッフに任せてあるから♡」
「いや……あなたが講師でしょ! しれっと職務放棄しないで!?」

 斜め向かいのテーブルを見ると、先輩が小学生くらいの子にチャームの付け方を教えてあげているところだった。うちのサボり講師も、少しは姿を見習ってほしい。

「もう〜、そんなにユキおねえさんのことが気になるのぉ? でも、ハルー、あなたには桜雅くんっていう許嫁(いいなずけ)がいるじゃない。お兄ちゃん、浮気は許せないわぁ」
「ち、違うから! 話をややこしくしないで……!」

 的外れにも程がある。

 それに……おうくんが僕の許嫁っていうのは、聞き捨てならない。

 僕は声を潜めて、お兄ちゃんを説き伏せた。

「あらま! 紗雪ちゃんと知り合いだったの?」
「だから、さっきからそう言ってるでしょ」
「もっと早く教えてちょうだいよぉ〜、ハルったら照れ屋さんなんだからぁ」
「無駄話はいいから……いい加減、業務に戻ってください」

 僕らが押し問答を繰り返していると、

「なっちゃん先生! チェーンが上手く切れないんですけど……」
「はいはい、今、行きますねー」

 ものの数秒で、爽やかイケメン講師の皮を被り、お兄ちゃんは席を離れていった。
 
 恐るべし切り替えの早さ……。